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液浸
【SM 官能小説】

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液浸-7

若い肉体にどれほど価値があるというのかしら。現にあなたは老いたわたしでも抱くことが
できる。わたしは歳をとっていく時間とともにわたしを抱いた男たちの抱擁と肉体の熱さの
記憶を失った、それでもわたしは老いた肉体以上に、あなたを情欲の対象として求めること
ができる、どんな形にしても。カヅエは、膝の上の図鑑を閉じると彼の髪を優しく撫でなが
ら言った。

再婚した夫はわたしを愛していなかったわ。彼にはいつもある女の影を潜ませていた。わた
しはそれを問いつめることはなかった……なぜだか、わかるかしら。夫の女があの子だって
ことを知ったからよ。夫は、わたしではなくあの子を愛していたのよ。

どういうことでしょうか、と彼はカヅエの足先に唇を這わせながら言った。

あなたにはこれまで黙っていたけど、あの子が初めて抱かれた男が夫なのよ。

妻が大学生のときの話だった。もちろん、彼は妻からそんな話を聞いたことはなかった。彼
はカヅエに言った。あなたは、妻に嫉妬したのですか。

カヅエは彼の髪を撫でながら笑った。もしかしたらそうだったかもしれないわ。わたしは夫
となった男をあの子に奪われたのよ。

彼は何か想いに耽るようなカヅエの瞳から目をそらすことができないまま言った。だから、
あなたはぼくを妻から奪った……。

わたしは夫を離したくなかった、奪われたくなかった、夫は永遠にわたしの所有物であるべ
きだったのよ。彼の声も、息も、体温も、精液も。

彼はしばらく黙っていた。彼は皺のないカヅエの足の甲を唇でなぞりながら、足指のあいだ
に舌を差し入れる。手入れのいきとどいた爪の形も、足指の付け根の関節のやわらかさも、
彼の唇にふわりと馴じんだ。ふと彼の脳裏を横切った妻の足指は感覚……。その感覚は確か
に妻のものであるのに希薄だった。妻はセックスにおいて彼に足指を愛撫されることを好ん
だ。でも彼はあの頃、どんな思いで妻の足指を愛撫したのかは憶えていなかった。もちろん
妻がどんな思いで彼に足指を舐めさせたのかも。

彼は記憶を追い求めるようにカヅエの足指を口の中に含み、貪った。まるでカヅエの身体を
きつく抱きしめるように足指のひとつひとつを執拗に愛撫した。暗闇の中の雨は止みそうも
なかった。窓の外には、ふたりを見ている物の怪がじっと息を潜めているようだった。彼は
とても長い時間、カヅエの脚だけの愛撫を続けていた。カヅエと彼との別荘での不可解な
ひとときは、なぜか時間を刻まないような気がした。



次の日の夜はとても蒸し暑かった。カヅエは彼にいっしょにプールに入らないかと言った。
小高い山の斜面にある別荘の小さなプールは、どこからも覗かれることがなく、黄昏のとき、
あるいは月夜に、カヅエは何も身に纏うことなく、プールでひとり泳ぎ戯れることがあった。

七十歳を過ぎているというのに、幻想的な月の光を浴びた水にまぶされたカヅエの身体は、
まるで息吹き始めた若さを取り戻したように水を弾いた。彼はカヅエといっしょにプールの
中で戯れた。彼は、彼女と同じように全裸だった。

月夜に沈んでいる樹木のざわめきとプールの水の音が静寂に沈んだ森に響き、水面の光の飛
沫は夜空に放たれていく。

彼はカヅエと水の中で肌を触れあわせ、戯れることに官能の瑞々しい心地よさを感じた。
カヅエは水の中で彼を抱きしめ、彼に抱きしめられることを、まるで子供のように受け止め、
はしゃいだ。


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