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純白のマリアと漆黒のまりあ
【ファンタジー 官能小説】

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砕けた勇気-1

『いいか、お前の為だ。俺が迎えに来るまで部屋から出るなよ』

『ぅっ……は、はい……』

 有無を言わさない高圧的な焔の言葉。
 まるで杭を打たれたように押し黙ったまりあは口を尖らせながらも割り当てられた部屋で大人しく待つ。目の前のソファの上には焔が選んだ洋服たちがショッピングバッグから出されることもなく整列しているのは、ここを拠点とすることにまりあの心が追いついていないせいだろう。

「……慶さん、だっけ……麗先生と仲良さそうだった……」

 彼女のきついイメージの中に、はっきりと残る艶のある仕草とそれを拒まない麗の手。

(考えたくないけど、あの距離感……そういう仲だって私にもわかるよ)

 ふたりは初々しい恋人同士というものではなかった。
 すでに肌を重ねたことのある距離感。つまりは”男女の仲”……。

「なんでショック受けてるんだろ、私……」

 ソファの上で目を伏せながら膝を抱えたまりあ。新しい部屋をあてがわれても探索する気になれず、気分は内へと向いてどこまでも堕ちてしまいそうな錯覚にとらわれる。
あまり落ち込んだりすることのないまりあだが、どうもこの学園に来てからというもの、自分を保てず心がざわついて仕方がない。

 そうしてしばらくの間、己の視界を覆っていると――

(……なんの匂い?)

 五感のひとつを遮られたまりあは四感から得られる次の情報、嗅覚が冴えわたった。
 顔を上げ広い部屋を見渡すと、ベッドのサイドテーブルに華凜な百合の花が一輪。

「麗先生、届けてくれたんだ……」

(やっぱり逢いたい。百合の花のお礼なんて都合良過ぎるけど、今はこれしか……)

 ただ逢いたい一心で百合の花を手に部屋を飛び出した。その先に慶がいたとしても、麗のくれた百合の花がかすかな繋がりと勇気をくれる気がしたのだ。

(……っ決めつけるのはまだ早い……麗先生の口から聞いたわけじゃないから。慶さんが恋人とは限らない……っ!)

 しっとりと美しい百合の花をきゅっと握りしめ、日の暮れた廊下を導かれるように駆け抜ける。

『……麗さんもっと激しくしていいんですのよっ……』

「……っ!?」

(この声……慶さんの……)

 寮の中を駆けまわっていれば麗の部屋を見つけられる気がしたまりあの意識を色香にあふれた声が絡みつき、心臓が激しく嫌な音を立てて体の自由を奪う。
 ドクン――ッと不協和音を奏でた心音に抗えず、咄嗟に手身近な扉へ飛び込んでしまったまりあ。

(やだっ……どうして私ってば隠れちゃうのっっ!)

 震える足を奮い立たせ、思い切って飛び出そうとドアノブに手をかけた。

『……ぁあっ凄いっっ!!』

「……っ!!」

(……やだっ! 聞きたくないっ!!)

 どこからともなく聞こえてくる慶の嬌声に耳を塞ぐが、一度思考を巡った彼女の声は嫌でもソレを連想させてしまう。
 現実から目を背けたい一心で涙で滲んだ瞳を強く閉じると……

『何してんだ? 痴女』

「違うっ! 立ち聞きしたくて来たんじゃないっ!!」

 突如降りかかった声に激しく反発しつつ、脳内に浸食した慶の声を払拭するように声を荒げる。

『立ち聞き? って、あぁ……』

 なぜか冷静な男の声。
 やがて聞こえなくなった艶声にまりあの頭もまた次第に落ち着きを取り戻していく。

「……? ち、痴女って……?」

『普通にしゃべれよ』

 耳を塞いでいた両手を強引に掴まれ閉塞感が一気になくなると、自分が更に目をも閉じていたことに気づく。

「え……?」

 その拍子にまりあの手から落ちた百合の花が心なしか黒ずんで見える。そして半ば万歳するような姿勢で、顔だけ振り返ったまりあの視界に飛び込んできたのは――

「……ぎ、ぎゃぁああああっっっ!!!」

 引き締まった体を存分に曝け出した上半身裸の焔だった――。


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