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純白のマリアと漆黒のまりあ
【ファンタジー 官能小説】

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現れた"変態"-1

 「とりあえずこの女の家を見てくる」

「お願いします」

 百合の束をテーブルに置いた白百合麗はまりあを両手で抱えなおすと彼女の鞄を手に持ち、そのまま学園を目指して歩き始めた。

「相変わらず甘いな……あの"天使様"は」

 焔は自ら踏みつけにした百合から足を退けると白百合麗とは逆方向へと歩みを進める。
 そして懐から取り出したのは……

「白羽まりあ……"白羽"の姓は養父母のものだな」

 無表情な幼いまりあが優しそうな養父母に囲まれた写真が一枚と…彼女に関する情報を集めた膨大なデータの数々だった―――。

『今日という良き日に皆さんの新しい人生が花開く事を――……』

「……」

(いつも長くて嫌いだな……お偉い様方の話。でもしょうがないか、入学式だもんね……)

 一方的に投げられた祝いの言葉にまりあは退屈のあまり欠伸(あくび)が出そうになってしまった。

「……入、学式……?」

 我に返って数回瞬きを繰り返したまりあ。
 柔らかく、温かなベッドの上で聞く機械的な何かを通した人の声をここで聞くのはとても違和感がある。

「あ、れ……?」

 すでに体育館にいるはずのその身はなぜか真っ白な壁に覆われた室内のベッドで横たわっていた。

「お目覚めのようですね」

 視界の端から顔を覗かせたのは白百合麗だった。
 微笑みを浮かべながら近づいた彼の手は、まりあの額を優しく撫でると…

「気分はどうです?」

「……麗、先生……?」

 彼の言葉に上体を起こすまりあの背を支える白百合麗。

「急に起き上がってはいけません。まりあさんは軽い貧血を起こしていたのですから」

「はい……」

 見える角度が変わってくると、彼の後ろにある机の上に自分の持ち物が置かれていることに気が付いた。

(そっか…私、百合の園で気分が悪くなって……)

「私を運んでくれたの、麗先生です……よね?」

 今さらだが細身の白百合麗より自分は重いかもしれないという焦りが、年頃のまりあの心を襲った。
 恐る恐る彼の顔を見上げるまりあに声がかかる。

「当たり前だ。生娘が男の前で倒れるなど純潔を奪われても仕方がないと思え」

「……っ!?」

 まさかあの優しい白百合麗の口から出た言葉とは思えず、驚きに目を見張ったまりあだが…

「焔……どうして貴方はそういつも脅かすような事ばかり……」

「焔(ほむら)……?」

 聞き慣れない名を耳にしたまりあが早速目にしたのは……

「白羽まりあ、俺の顔を忘れたとは言わせないぞ」

「へ……?」

 不機嫌そうに仁王立ちした見慣れぬ男の姿だった――。

その男の言葉に驚いたのも束の間、それ以上の驚きがまりあを支配する。

「ちょっとそのバッグ……私のじゃないですか」

 以前、修学旅行用にと買った黒のバッグに赤いチャームのついたお気に入りのそれが焔と呼ばれる男の腕の中にある。

「もちろん中身も入っているぞ。それと……」

「お前男いないだろ」

「……はい? ってか初対面ですよね?」

(なんなのこの人……さっきからズケズケと……)

 苛立ちを覚えたまりあを更なる衝撃が襲う。
 なんと男はまりあのバッグを開けたのだ。

「まぁ、こんな餓鬼臭い下着ばっかり身に着けてるうちは男も寄ってこな……」

「……っ!! こんの変態っっ!!」

 焔がピラリと取り出したのは、可愛らしいクマの顔がランダムに散らばったまりあのお気に入りのブラジャーだったからだ。
 激昂というよりも恥ずかしさが上回ったまりあは勢いよくベッドを飛び出すと、男の手からバッグと取り出された下着を奪う。

「白羽まりあ……感謝こそされる謂れはあるが……この俺が変態だと?」

「あ、あなたねぇっ!! 当たり前でしょ!?
勝手に人の家入ったの!? それに……バッグに詰めたってことは色々漁ってきたってことでしょ!?」

 まりあ唯一の安住の地がこの男の手によってベタベタと触られたかと思うと、ゾワリと悪寒が走る。

「少し黙れ。白羽まりあ」

「うっさいわね!! んもーっ!! あとで除菌シート買って帰らなきゃ……五十枚入りくらいので、それから……」

 おそらく男が触ったであろう場所を思い浮かべ、徳用のものを思い浮かべる。ドラッグストアを経由して帰る道すら考案しているのかもしれない。

「お前のその減らず口、今すぐ俺が塞いでやろうか?」

 神経質そうな美しい焔の顔がグッと近づくと……

「え……?」

 まるで太陽のように鋭い眼差しに射抜かれたまりあの体は簡単に自由を失ってしまった。"ヘビに睨まれたカエル"の表現が正しいと言っても過言ではない。

(嘘……キスされ、る……)

そう思って強く瞳を閉じたまりあの唇に温かいぬくもりが触れて。

「口を塞ぐ方法は他にいくらでもあるのではないですか?」

 不機嫌そうな焔よりさらに険しい顔をした白百合麗の指先だった――。




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