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よだかの星に微笑みを(第三部)
【SF 官能小説】

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背負ったもの-2

行く先は決まっている。俺たちの溜まり場であり、居場所でもあるいつもの「鳥那須」だ。今日は渡部とも伊月とも約束していないから、知り合いはいないだろう。俺が先輩を連れて行く形になった。他の店に行く気はしなかった。
「いらっしゃいませ! 二名様、カウンター席でよろしいですか。」
俺たちはビールを大ジョッキで頼んだ。再会に乾杯してから
「なあ、俺たちの活動、どう思う? 岡田やマリエから、少しは聞いているんだろう?」
「日蓮宗なんですか。」
「基本的にはな。ただ、賛同者がみな信者という訳じゃない。」
「先輩は?」
「俺はいつでも弱い者の味方につきたいから、日和見主義だが、一応は信者だよ。あるがままとか言って、物事を変えようとしない禅宗とは違う。悪い世は変えるんだ。それにはやっぱり不惜身命だよ。組織は宗教団体そのものじゃないから、エコロジーと動物の権利なんかの活動が多いけどな。」
「動物の権利って、エコなんでしょうか。自然に反してるような。」
「反してるよ。普通にエコロジーと言っているものだって、結局は管理なんだよ。動物も人間も出来る限り平和に共存することが俺たちの理想だ。いいか、この理想がある限り、組織が潰れる事はない。たとえ地下組織として光をあびなくなってもな。」
話していても、渡部たちとの議論から抜きん出るものはないと思った。実行者だという先輩の言葉の重みを除いてだが。
「OHFっていうのと先輩たちは袂を分かったんですよね。」
「そうだ。向こうは人間の最大多数の利益と幸福しか考えない。その為にはオールターナティブの、何でもありの集団だ。エコも遺伝子組み換えもヨガも改造人間もオーケーだ。ついでに内実は唯物論だ。」
「それって、むしろ現代じゃ普通なような」
「まあな。だから、内情は複雑だよ。企業がらみで動いてるし、政治も絡んでくる。最初の理想から大分外れて、一部の特権階級のための組織になりつつある。ちなみに、先日うちのアジトを一つ潰されたよ。新型が出てきて、奇襲で三百人ほどやられた。不思議な事だが、誰も殺されなかった。舐められたもので、新型と十人ばかりの刺客だった。そう言えば、お前、敵の新型に会ったのか。お前と話したマリエが呆れてたぞ。」
「会いました。」
「変わった奴だな、お前は。」
「先輩たちの情報、間違ってましたよ。クリーンネーチャーって、知ってます?」
隠しておくだけの我慢強さは俺にはなかった。
「最近知った。狂信的で自虐的な団体らしいな。人類は地球の癌だとか言うそうだ。」
「藤澤蘭はクリーンネーチャーでした。OHFの新型じゃありません。」
「上陸してたのか! お前、どっちとも会ったのか。」
「どっちも女なんですけど、三人で飲みに行って、そのあとセックスしちゃいました。」
先輩はげらげら笑った。
「やっぱり俺はお前が好きだよ、弘前。俺たちが殺されなかったのはお前のおかげだろうな。ふふ。」
「それと、俺の彼女が、この子なんですけどね、改造人間になっちゃいました。どうしてですか。」
俺は買った雑誌を先輩に見せた。
「お前、中学生とやったのか。」
「え? いえ、あの、俺、マリエともしてますよ、最初の時。」
「まあ、俺は知らん。OHFとうちらの改造人間には、物理的に仲間を増やす方法が備わっている。協力者を増やすのにいちいち改造していたら経済的に回らないからだ。とは言え、強引に組織に引き入れてもうまくいかない。というわけで、恋仲になったら接触感染させて、準改造人間になってもらい、戦士を増やす。男より女がよく使ってる。感染しても健康になるくらいで、別に損はない。」
「その方法でクリーンネーチャーは、逆に病気を広めてます。俺の彼女は、だんだん本物の改造人間になっていくみたいなんですよ。もうじき飛ぶんじゃないかな。」
「ふうん。お前の機能には未知な所があるからな。実験体とも言えるが、データを取っていない。設計図も紛失して、まあ、俺が消去したんだけれど、本体も破壊された事にしてある。」
先輩は酔っているのか、聞いてはいけないことを言い始めているように俺には思われてきた。
「念仏無間とは言うが、お前のように他力本願的な奴も俺は嫌いじゃない。何より、仏教は平和を良しとするものだ。お前が敵対勢力の二つのグループの奴らと飲んだとかいうのは傑作だ。組織としては困るが、争わないのはいいことだよ。」
仏教の話になった。
「先輩は、宮沢賢治のよだかの星っていう童話を知ってますか。」
「昔、教科書で読んだな。」
「ただの可哀想な話だと思ってたんですけど、この頃は身につまされちゃって。世の中、思い通りにならない事ばっかりじゃないですか。人の考え方もばらばらで。これをしていればいいっていうような、絶対的な価値って無いんですかね。」
「あったとしても、その通りに行動できないだろう? 自分から出てきたものじゃ無い限りはな。俺たちの組織はその点、強い。仲間になるのも簡単だ。単純な慈悲心があればいい。外側にある価値で行動している奴らとは違う。」
自信ありげに先輩は語る。
「でも俺は入れないんでしょう?」
「お前の慈悲心は、ある意味俺たちを超えているかもしれないな。敵を集めてセックスするなんて。猫も助けたそうだし。だけど、お前は行動できるかい?」
「大きなことはできません。」
「覚悟もないだろう? 対立が怖いだろう?」
ヨダカのように悲しんでも、俺は死ぬ事もできないし、悲しみを変えるべく行動するつもりも、その力もない。それで即答した。
「はい。」
「それじゃ、組織としては困るんだ。でも、俺はお前の事を高く買っているよ。いや、ほんとに高かった。改造費な。ははは。」


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