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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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この向こうの君へB-1

誰か僕に顔に見合った性格を下さい。

すずさんから衝撃の告白を受けてからと言うもの、僕はよりいっそう周囲を気にするようになった。
『すずさんにバレないように』なんて考えではもう駄目なのだ。『絶対にバレてはいけない』を頭に置いて、辺りを伺いながら我が家へ向かう。
キョロキョロしながら階段を上がりそわそわしながら鍵を開ける姿は、椿さん曰わく
「空き巣」
だそうだ。
「挙動不審っぷりが外見を見事に演出してる」
嫌味のオマケ付き。
すずさんが僕の外見を誤解しつつも好いてくれたと報告してから、椿さんはすこぶる機嫌が悪い。
「他人の恋が実る事ほどつまらない事はない」
しばらくフリーが続くこの人はそれは不愉快そうに吐き捨てた。
「そーゆう事は実ってから言って下さい」
「バレて嫌われちゃえ」
不吉な一言を…っ
でも、やっぱバレたら嫌われるよな。外見も内面も好かれてるのに、それが一つになったらすずさんは僕にどんな顔を向けてどんな言葉をかけるんだろう。
その時の僕達が、どうか笑っていますように。

今夜も壁を挟んで会話をする僕達。でも、正直言って微妙。
「あの人、作業服着てたけど仕事何してるんだろう」
あれ以来すずさんの口から出てくる話題は“あの人”の事ばかり。
“あの人”=僕なんて知る由もなく、今日もワイルドで硬派な“あの人”を思い浮かべて話す。
「工場勤務とかじゃないですか?」
我ながら、なんて白々しい返答だろう。
「いくつだろう、あたしより上だよね」
「えっ」
「だって落ち着いてたし、助け方もスマートで慣れてるって感じだったもん」
落ち着いてないです。現状を理解するのに必死だったんですって。しかもあなたより4つも年下。
すずさんは想像力が豊かだ。彼女の中には顔しか知らない僕の人格がバッチリ出来上がっている。
「耕平君最近あの人見た?あたし、あれから一回も会ってない」
壁越しに聞こえる声はどこか曇りがちで、好きな人に会えない寂しさが感じられた。
「や、見てないです」
そして嘘をつく。
直後訪れるものすごい罪悪感。
「102に住んでるおじさんの友達かな」
それは間違ってない。
「多分」
「101のお姉さんの彼氏じゃないよね」
101…椿さんの事?
「ないない!絶対ないです!」
「何で言い切れるの?」
「あ、いや〜…。101の人は僕の会社の先輩で、そんな話聞いたことないから…」
「えっ、そうなの?」
「そうなんです、このアパート紹介してくれたのもあの人で」
「初めて聞いた。なんか、あたし達こうやって話してるけどさ」
「はい?」
「あたし、耕平君の事なんにも知らないね」
「…そう、ですか?」
「顔見せてとは言わないから、たまには耕平君の話も聞かせてよ」
「…はぃ…」
嬉しいのと申し訳ないので語尾が小さくなる。
「そろそろ寝よう。おやすみ、耕平君」
「おやすみなさい」
しばらくそこから動けなかった。
部屋を仕切る薄い境の向こうから『カラカラ』と窓を閉める音が聞こえる。
せっかくすずさんに好いてもらったこの顔は、やっぱり僕の悩みです。だって、いつかすずさんをがっかりさせるから。気持ちへの答え方が分からないし、それに、嘘つきは嫌いだよね。


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