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よだかの星に微笑みを(第一部)
【SF 官能小説】

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ひいなさん-3

ひいなさんは大人だった。そして一升瓶を空ける体質だ。
「伊月くん、なに飲む?」
「ジョッキのビール。」
憮然とした伊月はそのあと無言でビールをさんざん飲み、その場で眠ってしまった。
ひいなさんの家庭事情がやや分かった。
弟は名門高校三年生の生徒会長、妹は中学三年生で名高い不良少女。ポリアンナと、つまりマリエと同じ学校に在籍している。弟は家族経営の大企業の後継ぎに決まっているらしく、妹は高校に上がれるかも分からない成績だが、悪い奴らとの幅広い人脈を作っているという。
マリエが言っていた岡田と、カブトムシの言った馬鹿な妹は同一人物だ。そしてカブトムシはひいなさんの弟。妹も改造人間かもしれない。もしかすると、ひいなさん自身もそうかもしれないと考えたら、恐ろしくなった。
「そう言えば、ひいなさんとこ、会社の話やけどな、よくは知らんけど、遺伝子組み換え食品とオーガニックのと両方売っとらん?」
「多分。あんまり興味ないから、あたしも分からない。」
「どういうポリシーなんやろな。」
「俺、そこのサプリメント飲んでた事ある。」
「インポのサプリか。」
「鉄だったかな。」
「なんでや。」
「高校の時に好きだった体操部の子が飲んでたんだよ。腹筋バキバキに割れてた。真似したかったわけ。」
「鉄飲むだけで割れるか。まあ、お前、弱いから鉄は良う似合っとるわ。」
「いま思った。遺伝子組み換えとオーガニックが対立するっていうイメージ、普通にあるけど、それ、文明と自然の対立の構図に似てないか? 人間と自然て言うかさ。」
「農業は英語でアグリカルチャーやろ。人工的な事やからな。自然のままで暮らせるわけないもんな。人間は自然も地球も作り替えとる。」
「宮沢賢治の『よだかの星』、あたし好きなんだけど、どう思う?」
いきなり違う話題を振られた。自営業に関わる話などして、内容が悪かったかと俺は感じたが、話を変えるのに慣れ切った渡部は動じることなく
「いじめられてるヨダカが、自分も他の生き物を食っていじめている矛盾に気づいて、星になろうとして墜落する話やな。」
「俺は、あれは、マッチ売りの少女とか、浦島太郎なみに納得いかない。」
「御伽草子の浦島太郎は解決しとるぜ。」
「どういう風に?」
尋ねたひいなさんに渡部は
「玉手箱は生命力の保管装置やったと。」
「すごいアイデアね、それ。」
「宮沢賢治は法華経を広めるために童話を書いてたはずやな。仏教的にあの結論かいな。」
「ジャイナ教だと、生き物を殺すより餓死の方を選ぶんだろ? 生まれた意味とか生きる意味とか、無いよな。」
「実在を霊界の方に置いとるから、筋は通っとる。」
「ヨダカは星になれたけど、他の生き物はどうするんだろうって、聞いてて今あたし思った。でも、あれ、ヨダカが菜食になれば、あとはいじめの問題をなんとかすればいいのかしら。」
「また菜食か。植物は命あるかないかとか、話、ややこしくなるわ。」
「顔が悪く生まれた運命の問題もあったと思うよ。顔は喩えか。」
「じゃ、話、変える。マッチ売りの少女ってさ、別な話あるの知ってる? マッチ一本いくらで、スカートの中照らさせて見せるの。パンツ穿いてないの。」
目の前で、ひいなさんの日本酒のコップがぱかぱか空いていく。
「それもなんか納得いかないけど、実話にありそうだ。」
「男って、そうまでして見たいの? すごい利益だよ、そのマッチの売り方。」
「俺は買わんぞ、マッチなんか。それにガキやないか。」
「俺は買うぞ。子供のあそこなんか、この時代、まず見られないからな。写真持ってても犯罪なんだぞ。激レアものなんだよ。」
酔った俺は熱弁をふるって言った。
「お前も世間に通らん骨のあるロリコンになってきたみたいやな。ヨダカも人間も、思い通りに世の中はならんちゅうことや。」
「それを人間は思い通りにしようとして、カルチャーやテクノロジーを駆使する。あ、話、繋がった。」
「弘前くん、あたしが妹に頼んだら、嫌になるくらい知り合いの画像とか動画、たくさんくれるかもよ。言ってみようか。」
「いや、やめとくよ。犯罪だって言ったばっかだし。」
ひいなさんは、真面目なのかふざけているのか本当にわからない。妹なんかと関係を作ったら、マリエもまた出てきてしまうだろう。虫に関係ない話だからそれでもいいかも知れないが、ポリアンナに聞かれたらおしまいである。
「また妹かいな。話、更に戻っとるわ。もう今日は帰るか。おい、伊月、起きろ! お前がひいなさん送ってくんやぞ!」
しかし、二人と別れた後も、俺と渡部は店を変えてまた飲んだ。くだらない、少女のマッチの値段をネタに盛り上がった。無駄な会話。それは知っている。しかし、いい時間だと思った。ずっとこのまま大学生で居たいと俺は感じた。


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