投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

呪いを解いて
【ガールズ 恋愛小説】

呪いを解いての最初へ 呪いを解いて 33 呪いを解いて 35 呪いを解いての最後へ

百合香の父-2

「…鈴木さん…だっけ。少し…時間を貰ってもいいかな。君と話がしたい」

駅へ走る百合香を見つめながら、彼女の父が呟くように言う。

「…うちは門限ないので、大丈夫ですよ。でも、出来れば手短にお願いします」

「うん。ありがとう…百合香の母親ことは、どこまで知ってる?」

「…詳しくは分かりませんが…"可愛い女の子"に対しての異常なまでの執着心は何かあるんだろうなとは思いました。一度…会っただけですが」

「…あの人は、自分の"苗字"と"容姿"にコンプレックスを抱えてる。旧姓は"毒島(ぶすじま)"。幼少期に…苗字のせいでからかわれたらしい。容姿は悪くないと俺は思う。むしろ綺麗だ。けど…彼女もまた、彼女の母親…百合香の祖母から、ネグレクトを受けていてね。可愛くないだとか、死ねだとか…色々言われたらしい。…今はもう…俺が彼女を連れ出して…駆け落ちする形で彼女は母親と縁を切ったけど…。百合香には葵(あおい)って名前の一つ上の兄がいるんだ。けど、あの人は百合香しか愛せなかった。百合香が産まれてからは、葵を放置するようになって…男の子は可愛くないから要らないとまで言い放ったんだ。…本人のいる前で。だから俺は、葵を連れて、家を出ることを決意した。百合香を置いて行ったのは…百合香が居なくなったら…あの人が何をするかわからなかったから…俺を殺そうとするかもしれない。そしたら葵も、百合香も、それからあの人も…誰も救えない。百合香を…犠牲にするしか、方法が思いつかなかったんだ。百合香も言ったけど…俺は百合香を"魔女"の生贄に差し出した。俺は…幼い百合香より、小百合の…百合香の母親の心を優先した。それが百合香の心を殺すかもしれないってわかっていながら俺は…」

自分を責めるように、百合香の父は語る。
その選択が間違っていたかどうかなんて、誰にも分からない。
私にも分からない。私がこの人の立場だったら、どうしていたのか。
誰もこの人を責められないと思う。
私がそういうと、彼は涙を流しながらお礼と謝罪の言葉を述べた。

「ごめん…最後にもう一度だけ…確認してもいいかな。君は女の子で…百合香の恋人なんだよね」

少し戸惑うような顔だった。けれど、それが娘の選択なら受け入れようという意志を感じる。

「恋人…と言っていいかはまだ微妙な関係ですが…私は彼女のことを愛してますし、彼女もそれを受け入れてくれました」

「…そう…か…小百合…百合香の母親は…そのことは知っているのか?」

「いえ。…私は彼女の母に嫌われてますから。彼女は…母親に、私に近づかないように言われてるみたいです」

「…君は…どうやってあの子の心を引き出したんだ?俺でも無理だったのに…」

切なげな声だった。
百合香のことを気にかけていることが伝わる。
百合香だけでない。百合香の母親のことも。

「…心を引き出したのは彼女の意志ですよ。私はただ…学校にはあの人の目は届かないから、安心してって伝えただけです」

「それだけ…?」

「…えぇ」

特別なことは、何もしていない。私が手を出せばあの子はきっと、私に依存してしまうから。
それを彼女の父に伝えると、君になら百合香を任せても大丈夫そうだと、少し寂しそうに笑った。

「…小百合はきっと…認めないだろうけど…俺は君を認めるよ。百合香の意志で、彼女が君を選んだのなら、君が女の子だとか…そんなのは関係ない。百合香のこと、よろしくお願いします」

「…ありがとうございます」

「…あ、連絡先聞いてもいい?本当は百合香の連絡先も知りたいけど…彼女はまだ…俺を許せないと思うから。…いつか、君経由で連絡を取りたい」

「そういうことなら…LINEでいいです?」

「ん。大丈夫」

彼女の父親と連絡先を交換する。
こんな日が来るとは思いもしなかった。

「…百合香の学校での写真とか、あとで送りますね」

私がそう言うと、少し驚いたような顔してから、百合香が怒らない?と寂しそうに笑った。

「大丈夫です。彼女には内緒にしますから」

「…ありがとう鈴木さん。鈴木さんは優しい子だね」

「…貴方も優しい人ですよ」

私が彼女の恋人だって言っても、反対しなかった。
それだけで、充分分かる。この人は、優しい人だ。
優しいからきっと、彼女の母親のことも見捨てられなかった。

「…でもいつか…彼女ともちゃんと話してくださいね?」

「…わかってる。けど今は…まだ勇気が出ないんだ…。だから…決心がついたら、君に連絡する。その時は君から百合香に…俺が会いたがってるって伝えて。彼女が会いたがらなかったら、俺から会いに行く。…必要なら、君も一緒に居ていいから」

「…わかりました。待ってますね」

「うん…じゃあ、また。ごめんね。引き止めて」

「いえ。…会えてよかったです」

「俺も。百合香に…それと、君に会えて良かった」

手を振り、去っていく彼女の父が見えなくなるまで手を振る。
百合香は今、どうしているのだろう。
ちゃんと、向き合えただろうか。
…そんな簡単に行けばいいのだが。
いや、百合香の母の心が、長い年月をかけて闇に染まっていったなら、そんな簡単に救えるとは思わない。
百合香の心が救えても、彼女の母は…。
妙な、胸騒ぎがした。
百合香が危ないかもしれない。


呪いを解いての最初へ 呪いを解いて 33 呪いを解いて 35 呪いを解いての最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前