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呪いを解いて
【ガールズ 恋愛小説】

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百合香の父-1

「駅までは送るね。私もどうせ駅通るし」

「…えぇ」

楽しい時間はあっという間だ。もう少し、彼女といたい。
けど、門限を過ぎたら帰れない。
いや、いっそ、帰れなくなったっていい。彼女と居られるなら。
しかし…私が彼女といることがバレたら…彼女に迷惑をかけてしまう。それだけは…嫌だ。

「…手、繋ぐ?恋人同士なんだ。それくらい許される」

「けど…」

「人の目、気になる?」

「…えぇ」

「…じゃあやめる?」

「…いいえ」

恐る恐る彼女の手を取り、握る。彼女は嬉しそうに笑い、指を絡ませてきた。

「ふ、普通に…握ってくれない…?」

「えー?恋人同士なのに?」

「恋人同士…で…いいのかしら」

「ダメ?女の子同士だから?」

「違う…そうじゃなくて…私はまだちゃんと言葉にしてないから…」

好き。愛してる。たった一言なのに。詰まって言えない。
それがまだ、苦しい。

「…でも…あと少しだよ。君はもう、自分自身とは大分向き合えてきてるだろう?後は…「百合香!」」

彼女の言葉に、男性の声が重なった。聞き覚えのある声だった。
忘れるはずのない、声。
2人で振り返る。
息を切らした中年の男性が、こちらを見ていた。

「お父さん…?」

「百合香…!やっぱり百合香なんだな!?」

両手を広げ、じりじりと、距離を詰める男性。
飛び込みたかった。けれど、"魔女の人形"が抵抗する。
あの人は、"母"を捨てた悪い人。私を"魔女"の生贄にして、兄を連れて逃げた人。

「…百合香…やっぱり…お父さんのこと恨んでるか?」

「…」

恨まないわけがない。何故私を置いて行ったの。私も連れ出して欲しかった。あの"魔女の城"から。
けど…私が連れ出されていたらきっと"母"は…

「百合香…ごめん。君を置いて行ったのは…」

「…私だけが、母に愛されていたから?」

「…小百合は…俺も葵(あおい)も愛していなかった。あの人が欲しかったのは…俺の苗字と…俺の遺伝子を持った女の子だけだった。だから…」

「…要するに、私は生贄なのね」

吐き捨てるように私は言う。キツイ言い方になってしまったのは、自分でも自覚していた。
父は優しかった覚えがある。私の好きなことを尊重してくれた。好きに生きればいいと言ってくれた。私も…父のことが大好きだった。だけど…何も言わずに、出て行った。ある日突然。

「百合香、今からでも遅くない。お父さんの元へおいで。あの人は君の心を縛る。あの人のところにいたらいずれ君の心は…」

私の心なんて、もうとっくに壊れかけてた。
それを海菜が今、治そうとしてくれている。
父はきっと、ずっと私のことを気にかけてくれてたんだと思う。
海菜と出会わなかったらきっと、ここで私も母を捨て、父の元へ行ったと思う。けれど…それじゃあダメなんだ。私は…きっと一生自分を責めながら生きることになる。あの人を捨てた罪悪感に苦しめられながら。だから、海菜は私をあそこから連れ出さないのだろう。

「…大丈夫ですよ。百合香の心は…ちゃんと生きてます。壊れてません」

海菜が、私の手を握る手に力を込める。大丈夫だよと、いつもの優しい声が聞こえたきがした。

「君は…」

「鈴木海菜っていいます。百合香の同級生で…恋人です」

堂々と、彼女は宣言した。女の子みたいな名前だね。と父が呟く。女ですよ。と海菜は隠すことなく伝えた。父は驚きを隠せないといった顔をした。

「女の子…が…恋人…」

「…そうです。彼女の母には敵視されてますが」

「…そう…か…百合香は…ちゃんと…自分の心に正直に…」

「…そうなれたのは彼女のおかげ。確かに、母は私の心を縛ってた。本当の自分を否定されて…母の理想のお人形になっていく自分が辛かった。今でも母のことは嫌いだし、恨んでる。けど…それでも…私が居なくなったら母はきっと…壊れてしまう。だから貴方も…私を残したんでしょう?」

父は答えない。ただ苦しそうに、俯くだけだった。

「…私は貴方の元へは行きません。母のところに帰ります。…母と…"母の作った母の理想の私"とちゃんと向きわなきゃいけないから」

「百合香…」

「…門限があるので、失礼します」

またね。と海菜が手を振る。私もまたねと返し、駅へ走る。
父の方は、振り返らない。振り返れば、逃げてしまいそうだから。
恐ろしい魔女の待つ城へと、まっすぐ帰った。
魔女と、そして魔女のお人形だった私と向き合うために。


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