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呪いを解いて
【ガールズ 恋愛小説】

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球技大会-5

「…ごめんなさい、小春」

結局、1試合も勝てなかった。良いよと笑う小春の表情も、少し暗い。

「友達と他人のフリしなきゃいけないのって、1日だけでも辛いね」

私を見張る魔女に聞こえないよう、小春が小さな声で呟く。
小春も辛い。私だけじゃない。
きっと、この苦しみは普通なんだ。
"友達"に会いたくて胸が苦しくなることなんて、別に普通なんだ。
自分に言い聞かせるように、心で呟く。

「ゆりちゃん」

あの人の、声がした。心配するような声。"魔女"ではなく、"母親の声"だった。

「お疲れ様。残念だったわね」

「…応援、ありがとう。ママ」

"地雷"を踏まないように、慎重に言葉を選ぶ。いつかはその地雷を、全て踏み壊さなければならない。けれど、今はその時ではない。

「…そちらはお友達かしら」

「…えぇ…小春っていうの。可愛い名前でしょう?」

声が上ずる。大丈夫。小春は大丈夫。この人は、小春から離れろとは言わない。彼女は母の理想の女の子に近いから。小さくて、可愛い女の子だから。
"小春がこの人の前で余計なことを言わなければ、大丈夫"

「…菊池小春です。百合香ちゃんとは同じクラスで、同じ部活です」

「ああ、貴女もダンス部なのね。部活の時の百合香、どう?」

小春が言葉に詰まる。彼女もまた、"地雷"を踏まないように、慎重に言葉を選んでいるのが分かる。

「とても…楽し…そうです」

「そう。それは良かった。素敵な友達も出来たみたいだし。これからも、百合香と仲良くしてあげてね。小春ちゃん」

「…はい」

「…じゃ、じゃあママ、もう…行かなきゃ行けないから…また、後でね…」

「えぇ。またね」

小春を連れ、魔女から離れる。見えなくなったところで、追ってきてないことを確認し、2人でホッと息をついた。

「…百合香ちゃん、大丈夫?…飴舐める?」

「…レモンがいい」

「ああ、やっぱりレモン好きなんだ。私も好き。はい。どうぞ」

「ん…」

口の中に、レモンの爽やかな味が広がる。海菜がくれた飴と、同じ味。しかし海菜は、これが好きなことをどうして知っていたのだろう。話した記憶がない。

「…海菜はどうして私がレモン味の飴を好きなこと知ってたのかしら」

「あれ、言ったことなかったの?」

「…えぇ。好みについては…その…"母から管理されてる"から。自分でも何が好きか…よく、分からなくなってるの」

「好きになるものまで決められてるってこと…?」

低い声。怒っているようだった。一瞬だけ恐怖を感じたが、大丈夫。その怒りの矛先は私ではなく、あの人。

「…ありがとう小春。私のために怒ってくれて」

前までだったら、こんなこと人に話せなかった。多分、海菜の言葉が効いているのだろう。あの人のいない場所でなら…少しだが、自分を解放できる。

「…ごめんね。何もできなくて」

「いいのよ。あの人とは…私が向き合わなきゃダメなんだから」

「…百合香ちゃん」

あの子が勇気をくれた。だから、大丈夫。大丈夫。大丈夫。
自分に何度も言い聞かせる。だけど、もう1人の自分が叫ぶ。「無理よ」と。母のお人形の、弱い自分。
"本当の自分"が、内側に押し戻される。

「…もう…海菜と話しても…平気よね」

「…でも百合香ちゃん、お母さんと一緒に帰るんでしょう?」

「…そう…ね…月曜日の方が…いいかしら…でも…」

海菜に、会いたい。会って、勇気を分けて欲しい。魔女に…そしてその操り人形である自分に立ち向かう、勇気を。

「…私と寄り道したいからって言って先帰っててもらうとか?海菜ちゃんの名前出さなきゃ平気でしょう?」

「…許してくれるかしら」

「…それもダメかな」

「分からないわ…下手に…発言して…地雷を踏むのが怖いの…」

「…そっか…じゃあやめておく?」

「…いいえ。やっぱり…その案、試してみるわ」

可能性があるのなら…掛けてみる価値はあるかもしれない。
断られたら、素直に従えばいい。
教室に戻るなり、震える手で、母に連絡を入れる。
送信してしまった。既読がつく。どんな顔で、見ているのだろう。
小春も一緒に見守ってくれていた。
しばらくして、門限までには帰るのよと返信が来た。
2人でハイタッチをする。

「良かった。じゃあ何処か寄ろう。海菜ちゃんも一緒に」

海菜の名前は出していない。けど"小春と2人で"とも言っていない。
大丈夫。嘘はついていない。


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