投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

呪いを解いて
【ガールズ 恋愛小説】

呪いを解いての最初へ 呪いを解いて 11 呪いを解いて 13 呪いを解いての最後へ

魔女の城-1

「…ただいま」

彼女と、彼女の家に入る。その瞬間、ドタドタと、誰かが慌ててる足音が近づいてきた。

「百合香ちゃん!どこ行ってたの!」

甲高いその声を聞いた瞬間、彼女の身体がびくんと跳ねた。
ミニスカートを履いた20代後半くらいに見える女性が現れた。高校生の母親とは思えないくらい若かった。多分、百合香の母だろうが、彼女と並んでも姉妹で通じるくらい。

「ご、ごめんなさい…ママ…ちょっと…駅で体調が…悪くなっちゃって…連絡…出来なくて…ごめんなさい…それで…友達が送ってくれたの」

途切れ途切れに、言葉を選ぶように、彼女は話す。甘ったるい香水の匂いに酔いそうになりつつ、なんとかこんにちは。と普通に挨拶ができた。その瞬間、ギロリと、大きなぱっちりした目が私を睨む。

「百合香の友達?貴方が?」

ドスの効いた低い声に、百合香が怯み、後ろ手に、私の手を握る。大丈夫。と彼女の手を握り返した。

「鈴木海菜です」

「…女の子みたいな名前ね」

「ああ、よく勘違いされますが、女です」

険しかった彼女の母の表情が緩んだ。ごめんなさいねと謝る。

「いえ。大丈夫です。慣れてますから」

「でも…辛いでしょう?男の人に間違えられるのは。"貴女も女の子なんだから"」

彼女と初めて会った時に言われた言葉だ。その言葉を聞いた瞬間、彼女の握る手に込められた力が強くなる。怯えているようだった。
やはり、彼女の心を縛っているのは彼女の母だ。きっと、彼女は母親の"女の子"という言葉で縛られている。女の子らしいと思っていた彼女は、本当の彼女なのではないかもしれない。本当の彼女を知るためには、彼女に掛けられたこの"魔女"の"呪い"を解かなきゃならない。

「…そうですね。でも私は、可愛い女性より、カッコいい女性でありたいです。男の人みたいに。ですから、男の人に間違えられるのはむしろ…」

「何を言っているのかしら」

私の言葉を遮るように、低い声が発せられた。けれど、私は怯まない。私がこの人の言葉を肯定することは、きっと"本当の百合香"を否定することに繋がるから。だけど、否定してもいけない。否定したら"今の百合香"も否定してしまう。"魔女"が作った"可愛いお姫様のお人形"も、内に閉じ込められた、まだ私の知らない本当の彼女も、どちらも彼女だと、私は思う。それに…

「…女性が"カッコいい"に憧れてはいけませんか?」

百合香に言った言葉と、同じ言葉を返す。あの時の彼女の言葉はきっと、この人の言葉だ。そして…これは私の推測でしかないのだけれど、魔女もまた、この言葉に縛られているのではないだろうか。
魔女の瞳を真っ直ぐ見つめる。貴女はどうしてそこまで"可愛い"に執着するの?と心で問いかける。"魔女"は私から視線を逸らした。私の言葉には答えず「変な子」と吐き捨てる。

「…貴女みたいな子といると、百合香まで変になっちゃうわ。ねぇ、百合香?百合香はこの子よりお母さんが正しいと思うでしょう?」

「!…私は…」

"魔女"の問いかけに、百合香は否定も肯定もしなかった。彼女なりの、精一杯の抵抗だったんだと思う。ちっと"魔女"は舌打ちをする。

「…ゆりちゃん、ママの話、聞いてた?ねぇ。ママが正しいわよねぇ?」

「あ…ごめんなさ…い…ママが…正しい…です…」

そうよねぇと、"魔女"は勝ち誇った顔をした。私の隣の"お姫様"はごめんなさいと小さく呟いた。声も身体も震えていた。

「…変な子でも構いません。私は百合香さんにも、貴女にも、自分の意見を強要するつもりはないですから。けど、私の意見を曲げる気もありません。自分は自分です」

憎むような視線を私に向ける。貴女に嫌われようが、私は構わない。
けど…

「…百合香」

帰るね。と百合香に声を掛ける。これ以上居たら、君にも迷惑をかけてしまう。
服の袖を軽く引かれた。行かないで。と視線が訴えている。
きっと"魔女"は私が帰った後、百合香に"あの子には二度と近づいちゃだめよ"と言うだろう。そしてきっと、百合香はそれに従い私から遠ざかろうとする。だから"魔女"が彼女に呪(のろ)いの言葉をかけるより先に、私が彼女に呪(まじな)いをかける。魔女に聞こえないように、彼女の耳元で囁く。

「また、明日ね」

こくりと、彼女は頷いた。
本当は、この"魔女の城"から君を連れ去ってしまいたい。
けれどそれじゃダメだ。
きっと"魔女"は、自身が"魔女"である自覚がない。"愛しい娘"を苦しめている自覚も。
だから私が彼女を連れ去れば、私を悪だと認識し、私を攻撃しようとするだろう。最悪の場合、殺されるかもしれない。娘を守るために。
そうなればきっと、百合香は自分を責める。私は何も手出し出来ない。
百合香に、自分自身と、そして魔女と向き合って貰うしかない。


呪いを解いての最初へ 呪いを解いて 11 呪いを解いて 13 呪いを解いての最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前