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呪いを解いて
【ガールズ 恋愛小説】

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お姫様-2

「…小桜さん」

「…はい?」

頭の中で呟いたつもりが、声に出ていた。名前を呼ばれ、彼女が振り返る。綺麗な顔が、間近に来る。眩しさに思わず目をそらした。

「…あー…えっと…」

「なぁに?」

小首を傾げ、不思議そうに、彼女は私を見つめた。そんな何気ない仕草さえ可愛らしい。ぱっちりとした大きな目、長い睫毛…髪も綺麗だ。艶がある。

「…小桜さんって綺麗だよね」

本音が漏れる。やってしまった。恐る恐る、彼女の方に視線を戻すと、目を丸くしていた。驚いているようだが、不快そうな顔ではない。

「…そんなこと言うために私の名前を呼んだの?」

「いや、実は何かを言おうとしたわけじゃなくて…あー、ほら、話し相手が欲しくて。私、このクラスに知り合い居ないんだよねぇ。あー、と、鈴木海菜って言います。よ、よろしく…」

思わず、へらへらと笑いながら早口で話してしまう。変な子だと、思われてしまっただろうか。少しだけ間を置いて、クスッと彼女は笑った。うわ、笑い方まで上品。一瞬だけ、従姉妹のお姉さんと彼女の姿が被った気がした。

「…私も心細かったの。同じ中学の子、いないから」

話しかけてくれてありがとうね。と彼女は柔らかに微笑む。少しだけ、憂いを帯びた微笑み。胸が高鳴り、締め付けられる。ああ、好きなんだ。確信する。けれど、それを言うのはまだ早い。一目惚れしたなんて、初対面で言われても困ってしまうし、きっと信じて貰えない。

「…百合香って、呼んでも良い?私のことも海菜でいいから」

「…海菜さん」

「ああ、さんは要らないよ。海菜で」

彼女は何故か躊躇うように、海菜と口にする。そしてこう続けた。

「…あんまり、誰かを名前で呼んだことも呼ばれたこともないから…慣れないわね」

照れるように苦笑いする彼女に、なるほどと頷く。

「そうなんだ。…百合香、もしかしてお嬢様だったりする?」

「そんなことないわ。普通よ普通」

「えー。でもなんか話し方もなんか…」

お姫様みたい。そう私が口にした瞬間、空気が一変した。一瞬だけ、彼女の悲しそうな顔を、私は見逃さなかった。

「…よく言われる」

ニコッと彼女は微笑む。影のある微笑みだった。

「…お姫様みたいって言われるの嫌だったかな」

「え?」

そんなことない。嬉しいわ。彼女の言葉とは裏腹に、表情は嬉しそうには見えない。

「貴女は逆に王子様みたいね」

言ってから、彼女は何を言っているんだと、自分の発言に対して驚いたような顔をし、ごめんなさいと謝る。その謝罪の意味は、よく分からなかった。私は別に、傷ついていない。むしろ、お姫様のような彼女から王子様みたいと言われるのは、他の人に言われるより嬉しい。

「よく言われるけど、私は嬉しいよ。褒め言葉だと思ってるから謝らないで」

きょとんとし、どうして?と聞き返す。どうして?それは私が聞きたい。彼女は私を貶すつもりで"王子様みたい"と言ったのだろうか?今のは嫌味だったのか?そうは思えないが。なんだか違和感を覚えつつ、褒め言葉だと思った理由を話す。

「ほら、私って君みたいに可愛いタイプじゃないから。私的には可愛いより、カッコいいの方が褒められてる気がするんだ」

でも貴女も女の子でしょう?と彼女は間を置かずに続ける。
女の子は可愛くあるべきでしょう?と、言っているようにも聞こえた。彼女には似合わない、低く、暗い声だった。何かに対してイラついているような、だけど辛そうな声。表情が消えていた。
何かわからないが、地雷を踏んでしまった気がした。
たしかに私も女の子として生まれた。だけど、可愛くある義務なんてないと思う。

「…女の子は、可愛くなくちゃいけないの?"カッコいい"に憧れちゃだめかな」

言い返す。そうは言ってないと彼女も言い返した。私にはそう言っているように聞こえたよと少し強めに返すと、彼女は怯えるような表情で黙る。

「…ごめんなさい」

声が震えていた。今にも泣き出しそうな、苦しそうな顔。彼女は何かを抱えている気がした。それが何かはわからない。けれども、こんな苦しそうな表情の彼女を放っては置けなかった。

「ん…いいよ。こっちこそごめんね。ちょっと…言い方きつかったかもしれない。怯えないで。私はただ、自分の意見を言っただけ。怒ってないよ」

「…本当に、ごめんなさい。酷いこと言ったばかりだけど…」

私の制服の袖を握り、私と友達になってくれる?と彼女は問う。
彼女の身体は震えていた。見えない何かに怯えるように。
私を助けて。と言っているように見えた。
全て、私の気のせいかもしれない。けれど、もしもこれが、闇の中にいる彼女からのSOSなら、答えない理由はない。
どちらにせよ、私は彼女と友達になりたくて、彼女を知りたくて声をかけたのだから。

「…よろしくね、百合香」

「…えぇ。よろしく、海菜」

恐る恐る、私の手を握り返した彼女の手は、少し汗ばんでいた気がした。


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