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天国に一番近い地獄
【学園物 官能小説】

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智の憂鬱-1

「でね、でね。それでね・・・」
「ふーん。それでどうなったの?」
「裕香ちゃんたらね・・・」
「ははははは」

 時刻はもう4時30分をまわっていた。児童はもうほとんど下校してしまっている。教室には歩と智の二人しか残っていない。
 あの日以来、智は色々と考えてはみたがいい解決策はまったく見つからず、放課後に歩の悩みを聞く事が日課になっていた。 しかし、最近では悩みを聞くというよりもただのおしゃべりに付き合っているだけではあったが、それでも歩が元気を出してくれればと智もとくに仕事
がなければ、ほぼ毎日のように歩に付き合ってやっていた。

「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ、家に帰らないと駄目だぞ」
「え〜、やだな〜。もっと、おしゃべりしてたいよ」
「そんなわがまま言っちゃ駄目だよ。両親だって心配するだろ」
「・・・お父さんもお母さんも夜遅いから。大丈夫だよ」
 大丈夫だとは言っているがそういうわけにはいかない。
「うーん。そうだ井岡、お姉ちゃんがいるだろ。お姉ちゃんが心配するぞ」
「・・・ううん。お姉ちゃんも最近部活が忙しいからって、帰ってくるの遅いんだ。だから、家に帰っても私一人なんだもん。」
 帰り話を始めると、いつも歩の目にはうっすらと瞳に涙が滲んでくる。
「だけどなー。井岡はお姉ちゃんと違って部活をやってないんだから、遅くなったらおかしいだろう。・・・うん、まてよ。そうだ、部活だ、部活。井岡、おまえ部活やってみたらどうだ?」
 セントカトレアは原則として初等部に部活やクラブといったものはない。ただ特別許可を受ければ、中等部の団体に加入することは出来る。もちろん、時間制限や活動可能な日数などには規程があるのだが。

「え!?でも私、部活なんて無理だよ。できないよ」
「そうか?いい気分転換になると思うぞ。初等部受け入れ可能なクラブはいろいろあるからな。見るだけでもしてみろ。先生も手伝ってやるよ」
「うーん、・・・はい」
「じゃ、とりあえず今日はもう帰りなさい。クラブ見学は明日からだ」
「はーい」
 まだ歩は寂しげな表情をしていたが、どうやら今日の所は帰る気になってくれたらしい。
「先生、ごきげんよう」
「ごきげんよう。気を付けてな」
「はーい。先生、いつも付き合ってくれてありがとね。ばいばーい」
「はは、はは」
 歩は元気よく手を振って教室を後にした。
「はーぁ、ばいばいねー。無邪気というか何というか・・・」
 歩の妙に親しげな態度に呆気に取られながらも、なんとなく智はうれしかった。

 それにしても、俺も毎日毎日よく付き合ってやるよな。こんなに児童としゃべるのは多分初めてだろうな。

 そもそも教育に興味がなかったし教職に就いている自分に疑問さえ持っている。それゆえ児童の事など全く興味を持っていなかった。しかしいつのまにか歩の悩みをまじめに聞いてやっている自分が可笑しくさえ思えた。


「えっと、このクラスのはずだよな」
 翌日、智は中等部の校舎のあるクラスの前で立ち止まった。
「えーっと、あれ、いないのかな?」
「どうかしたんですか?」
 いきなり後ろから声をかけられもう少しで驚いて声を出すところだった。
「あ、いや。あのさ、ここって星野先生のクラスだよな?」
「ええ、そうですけど。星野先生に用事ですか?」
「あ、あの用事ってほどじゃないんだけども。えっと、その今いないの?」
「星野先生は今日は研究日でお休みですよ」
「え!?・・・道理で朝から見かけないと思ったよ。はーあ」
「うふふふ」
「何だよ、笑うなよ」
「あ、ごめんなさい。あまりに可笑しかったから」
 そういって微笑む顔を改めてみてみるとこの娘は飛び切りの美少女である事が分かった。

 おっと、何だよ。めちゃくちゃかわいいな。でも、まだ中2じゃな〜。でも、なんか見覚えのある顔だな。うーん、思い出せない。


「先生ですよね?」
「ああ、一応な。初等部の方だけどな。」
「へーえ。あのぉ、星野先生に何の用事だったんですか?」
「職員室を覗いたけど姿が見えなかったので、こっちかと思って。ちょっと、相談があったから来ただけだ」
「ふーん」
「いないなら仕方ないな。また、明日にでも。・・・っと、そうだ。あのさこのクラスに井岡って子いるだろう? どの子かわかるかな?」
「え? 井岡ですかぁ」
「そう、井岡」
「えっと、それ私ですよ」
 少女がクスクスと笑う。
「君が井岡? えっと、井岡 歩のお姉さん?」
「ええ、そうですよ。歩の事知ってるんですか?」
「知ってるも何も、うちのクラスの児童だよ」
「へーぇ、そうなんだ。わたし、井岡 美雪っていいます。歩の事よろしくお願いします」
 美由紀は丁寧に頭を下げる。育ちのよさが見て取れるしぐさだ。
「あ、そうなんだ。君が美雪ちゃんかぁ。じゃ、俺次の授業があるから」
「はい、それじゃ」
 別れ際にも美雪は深々とお辞儀をする。

 なんだ、まさかあの娘が井岡の姉だったとはなー。そう言われれば、なんとなく歩に似てたかもしれないなぁ

 智は今別れたばかりの中等部の美少女を思い出す。一方の美雪も智のことを考えていた。

 ふーん、歩の担任か。なんかそわそわしてたけど、陽子先生のこと好きなのかなぁ。でも陽子先生ってやっぱりもてるんだろうな〜。はーあ、やだな、私だけの陽子先生でいてほしいのに・・・

 少女の心の中には嫉妬にも似た感情が仄かに灯っていた。


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