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「Captain Single Papa」
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「Captain Single Papa」-2

「お前に感謝するよ」
リガルドの言葉に応えるように、鴉が鳴いた。
「さて、船に戻るか」
大事そうに赤子を抱え、市場の喧噪を避けて船に戻る。
いつのまにか赤子はリガルドの腕の中で健やかな寝息を立てていた。
「船長!」
リガルドを見つけた中年の船員が声を上げる。
ちょうど食糧の買い出しが終わったのだろう、荷を船に積み込んでいるところだった。
「おう」
軽い調子で返し、赤子をあやしながら積み荷の状況を確認する。
「船長、それ何だ?」
船員達の視線がリガルドの腕に集まる。
「これか?そこで拾った」
寝息を立てる赤子の顔を覗き込みながら、リガルドは微笑んだ。今まで誰も見た事がないほど、優しい笑みだった。
「まさか連れてくのか?」
作業をしていた船員達が眉を顰める。
「当然だ」
船員達の手が止まる。信じられない、という表情でリガルドを見つめる。
「俺達は海賊だぜ!?ガキなんか育てられるわけねぇだろう!」
「海賊だから何だ。俺に負けねぇ立派な海賊にしてやるさ」
確固たる意志が込められた言葉に、誰も逆らう事が出来なかった。リガルドは一度言い出したら聞かない。それぞれが諦めたように苦笑しつつ、作業に戻っていく。
「さあ、今日からここがお前の家だ」
眠っている赤子を目の高さにまで掲げ、青い海に鎮座するモーニング・スター号を見せてやる。
「まさかお前さんが子供を拾ってくるとはな」
白いものが混じり始めた髪を撫でながら、中年の男が言った。
「新しい仲間に祝杯を上げなきゃな」
ドーヴが酒杯を掲げる仕草をする。
「お前がいるんじゃ、この酒の量じゃ足りねぇよ」
呆れたようにリガルドが笑う。
モーニング・スター号の一等航海士であり、リガルドの無二の親友であるドーヴはモーニング・スター一の酒豪だった。放っておけば一人で酒樽一つ空けてしまう。
「ドーヴ、こいつの名前をどうするかな」
節くれだった指で赤子の頬をつつく。突然の刺激にびくりと反応するが、自分を包む温もりに安心しきっている。
「拾ったのはお前さんだろう」
赤子を抱くリガルドを見つめたドーヴが、樽のような腹を揺らして笑った。
「何がおかしい?」
「お前さんに子供が出来て、悲しむ女がどのくらいいるのかと思ってな」
リガルドの腕の中の赤子の鼻を、人差し指でちょんとつつく。
「俺の子じゃない」
唇を尖らせ反論する。
「だがお前さんが育てるんだろう?」
ドーヴの言葉に、降参だというように空いた右手を挙げる。
「海賊がパパになるとはな。史上最悪の海賊と呼ばれたリガルド・ヒューガの伝説がまた一つ増えたじゃないか」
「今日から俺の呼び名はこうだ」
大仰に右手を広げてみせる。
「“キャプテン・シングルパパ”」
赤子の柔らかな頬に頬ずりする。甘い乳の香が鼻腔をくすぐる。
「馬鹿、リガルド−」
生えかけた髭が擦れて痛かったのか、赤子は鼓膜を破らんばかりの大音量で泣き出した。
「あぁほらほら、泣くな泣くなっ!」
慌てて赤子をあやすが、泣き止む気配はない。
「やれやれ…」
ドーヴは頭を振り溜息を吐いた。優しい優しい笑みを浮かべながら。


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