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烙印
【SM 官能小説】

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烙印-7

彼はとても満足した顔で身体をもちあげ、あなたの顔の上に跨るように股間を開くと、鼻先に
屹立したペニスを突きつけた。粘っこい汁に覆われた尖った亀頭が強欲な眼であなたを睨み、
虜にした。濡れきった亀頭が頬を淫靡になぞり、唇のあいだを掻き分けるように侵入してきた。
芯に堅さを含んだ堅い肉塊が舌を擦りあげた。唇も、肉体も、心も彼に支配された、彼の意の
ままに奴隷になった、そのことがあなたのすべてを解き放った。

彼のものの動きが口の中で止ったときだった。淫らにゆるんだあなたの唇のあいだに、迸る熱
い精液を注ぎ込まれ、息が閉ざされた。噎せるような甘酸っぱい匂いが鼻腔をくすぐった。や
がて粘り気のある白濁液は舌を滑り、咽喉を犯すように這いながらあなたの中に滴り落ちてい
った。
 

不意に我にかえったとき、電話の先から彼の声が流れてきた。

きみに刻んだ烙印がすでに疼いていることくらいおれには手に取るようにわかる。今夜なんて
無理なことは言わない。あいつが出張でいない夜でいい。その方が、きみも安心しておれとつ
き合える、連絡を待っている……。そこでぶつりと電話が切れた。


ドレッサーの前でお化粧をほどこし、いつもの眼鏡をかける。薄色のクリアピンクの縁で丸く
縁どられた眼鏡……それは自分を隠そうとしている眼鏡だった。夫と結婚した直後にかけ始め
た。なぜなら自分が、結婚式のパーティで再会した狩野という存在を密かに意識していること、
いや、意識せざるえない自分を隠したかったことがきっかけだった。それでも眼鏡のレンズを
通して垣間見たあなたの隠れた烙印は、はっきりと狩野の影を滲ませていた。

早々に家事をすませ、古文書館の仕事に出かける。博物館の裏手にある小さな古文書館は、庭
園の奥の鬱蒼とした林に囲まれ、その存在すらあまり知られていない。ふだんは来館者を入れ
ない建物の壁の煉瓦には蔦がびっしりと絡まり、眠ったように陰鬱に静まりかえっていた。そ
こであなたは古文書館の館長である七十歳を過ぎた老翁と資料整理の仕事をしていた。

夕方、資料整理の仕事を終えるとあなたは喫茶店でお茶を飲み、買い物をしたあと帰宅し、食
事を用意して夫を待つ。七年間、その繰り返しだった。子供はできなかった。いつのまにか夫
との会話から子供の話題は消えた。おそらくそんな瞬間から世の中のどんな妻たちも夫という
存在が自分にとって意味をなさないものであることに気がついている。むしろ妻という存在、
そして妻がひとりの女であるという意味さえ、夫は無意識に、無責任に妻から削いでいるよう
な気さえしている。

夫とすごす時間とともに肉体から若さが剥ぎ取られ、薄められていく。でも狩野があなたに刻
んだ烙印は皮膚に溶け込んでいるというのに、なぜか薔薇色に濃さを増し、汗ばみ、あなたの
存在の意味を深めていくような錯覚に陥る。夫はその烙印に気がつくことはない。おそらく気
がついたとしてもそのことを尋ねることはない(夫はそもそも妻の性器など関心がないのだか
ら)。



資料室での仕事の区切りがついたとき、あなたは想い出したように自分のバッグの中から本を
取り出し、書棚の片隅に戻す。持ち出し禁止の本だったが、特別に許可を得て借りた本だった。


「烙印便覧」……偶然、この本をここで手にしたときから、あなたは狩野との過去の記憶を、
ふたたび現実のものとしていつのまにか引き寄せていたのかもしれない。


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