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烙印
【SM 官能小説】

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烙印-14

―――
 

エピローグ


夫と別れてから十年近くがたつ……。

狩野が亡くなってから一年後に私たちは離婚した。私と夫とのあいだに漂っていたものが水で
薄められるだけ薄められ、分離し、途切れたような気がした。考えてみれば、夫は私以上に必
要としていた狩野という男をあのとき失ったのかもしれない。それは私も同じだった。狩野は
夫が私を愛するために、私が夫を受け入れるために、必要とされた男だったのだと思うことが
ある。

あのとき、クロゼットの中の箱に無造作に置かれた本……夫は私があの本に気がつくように故
意にあの場所に本を置いたような気がする。おそらく夫は、私と狩野との過去の関係のすべて
を知っていたのだ、私たちが結婚したときから。

夫は私が《そういう女》であることに、もしかしたら幻のような性愛を見出そうとしていたか
のようにさえ思えてくる。そして、少なくとも、私はふたりの男にそれぞれの性愛を与えられ
たことに、切ない微笑みを浮かべているもうひとりの自分を感じていた。


古文書館の老翁は、あの日を最後にあなたの前に姿をあらわすことはなかった。そしてあの建
物も今はすでに取り壊されてしまった。

あの老翁に会いたくなるときがある。なぜか今すぐにでも会いたかった……。

なぜなら、私に刻まれた淡い黒子(ほくろ)のように色褪せた獣の烙印が、彼の接吻をとても
欲しがっていたから……。


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