投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

烙印
【SM 官能小説】

烙印の最初へ 烙印 11 烙印 13 烙印の最後へ

烙印-12

「失礼なことを言うのかもしれません。烙印を押されることを夢見る女性ほど、冷酷な二重人
格性をもっている……女性が自分を美しくする自虐性は、同時に相手に対する加虐性でもある。
それは女性にとって盲目的な愛におちいる姿でしょうか……」

「おっしゃる意味が、私にはよくわかりませんが」と言いながらあなたは珈琲カップを窓台に
置くと彼から目をそらすように窓の外に目をやった。

「それは、あなたが男性の心にいだかせる夢であり、男性があなたに心を奪われていく夢なの
です」


 会話が途切れたとき、あなたの背後に寄り添った彼が撫でるようにあなたの腰に手をまわし
た。あなたはその手を拒まなかった。彼の手があなたを引き寄せ、互いの身体がしめやかに触
れ合う。

「男性が女性をどんな風に愛することができるか……いや、どんな愛し方をしようがそこには
理屈などありません。あなたには、どんな愛され方をしても、愛を受け入れる冷酷な優しさが
ある……なぜなら、あなたには烙印の匂いがするから」


 老翁の思慮深い体温が伝わってくる。体温は一点の微熱となり、まるで彼の触覚のように伸
び、あなたの烙印を探し求めるように這ってくる。やがて彼の体温はあなたの腿の付け根の、
性器の近くに刻まれた微かな烙印の痕にたどりつくと、薄れた点となった模様の縁をなぞり、
ひそやかに撫でていく。

「どういうことでしょうか」
「もしあなたが愛する男性に烙印を押されたとしたら、あなたはそれを永遠の苦痛として、も
っとも愛に近い形に変えようとするに違いない……いかにもあなたらしく」


骨の角張った老翁の身体が重なるように密着する。彼はあなたを強く抱き寄せた。顔のあらゆ
る部分の動きが止まった彼の唇があなたの唇に重ねられた。無機質で味のない彼の唇をあなた
はどう感じていいのかわからなかった。ただ、切なさだけが込み上げてくる静かな口づけだった。

 彼の唇の先には物憂く蒼みがかった澄んだ瞳がせまっていた。彼に抱き寄せられたからだの
芯が密かに微熱を帯び始める。まるで美しい蜘蛛の巣に囚われたように。


老翁の指があなたのからだに絡められるように伸びてくる。流れるように指が這い、ブラウス
のボタンが外され、スカートの裾がゆるやかにたくし上げられ、窓際のソファに押し倒された。

そのとき窓の外で烈しい雷鳴と閃光が走り、雨が樹木の葉をたたきつける音がした。あなたと
老翁のからだが絡む音がかき消された。下着の肩紐がずり落ち、片方の乳房がえぐられるよう
にむき出しになる。彼の細長く堅い指先が音もなく下半身を這い下がり、ストッキングとショ
ーツを剥いだ。優しげな視線があなたのからだの渇きを癒すように注がれる。


あらわになった肌のあらゆるところに彼の唇が押しつけられた。半透明の膜が肌をおおってい
くようにあなたのからだの気だるい突起と窪みが織りなす翳りをぬぐいとっていく。彼のとぎ
すまされた愛撫は切ない憂いに充ちていた。

そして彼の唇が太腿のあいだに埋められ、繁みをかき分けたときだった。一瞬、唇の蠢きが止
まった。彼の瞳の一筋の光線が、あなたの繁みに埋もれたあの一点に注がれたような気がした。

おそらく彼はあなたに刻まれた獣の烙印に気がついたのだ。そして彼はあなたがどんな女であ
るのか、鋭い審美眼ですばやく見抜いたに違いなかった。あなたは腕を伸ばし彼の顔を股間に
引き寄せた。烙印を彼の舌先が愛おしくつつき、貪るように舐め抜き、彼の口からあふれ出る
唾液が陰毛をしっとりと濡らした。

そのときあなたの烙印はまるで沈黙の深淵から息を吹き返したように疼いた。狩野があなたを
じっと見つめているような気がした。あなたの中に溶け込み、あなたの中で彼の像が淡い光芒
を放った。豊饒で、透明な狩野の呪縛にいつのまにかあなたの心が浸り込んでいた。胸の奥に
息がつまりそうになる。彼に烙印を押され、彼のものとなり、彼に冷酷に捨てられた自分がと
ても切なく美しく感じた。

まどろむような老翁の愛撫が不意に途切れたとき、彼のズボンのベルトがゆるめられ、ジッパ
ーが引き下げられる音が微かに聞こえてきた……。




烙印の最初へ 烙印 11 烙印 13 烙印の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前