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人妻危機管理室長・危機
【鬼畜 官能小説】

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序章-2

(男を挑発しといて何がセクハラだっ)
鬱屈した眼を持つその男は後藤竜也。十年前までは角紅本社のエリート社員だった。過去形なのは不祥事を起こして左遷させられたからだ。いや、まったくの冤罪だったが・・・。
 その日、いつものように朝の山手線に揺られていた。初めて任された大きな商談がまとまりつつあった。今日はその取引先との最終打ち合わせなのだ。
(この契約が決まったらプロポーズしよう)
社内の後輩OLと付き合ってもう二年。幸せな家庭を築いてエリート街道まっしぐら・・・。そんな青写真が崩れ去ったのが中年女性のヒステリックな一言だった。
「何すんのよ!」
「えっ、何って・・・」
ものすごい形相で睨まれた。それだけ返すのが精一杯だった。
「私のお尻触ったでしょ!この人痴漢ですッ!」
「そ、そんな・・・」
ビジネスバックを持ち、吊革に摑まっていたのだ。だいたい目撃者もいないではないか。
「いいから降りなさいよ!」
出勤途中のサラリーマンはこの男女のいさかいをチラッと一瞥しただけで、足早に通り過ぎる。面倒なことには巻き込まれたくないと思うのは誰でも同じだ。
 駅長室に場所を移しても、女の剣幕は収まらなかった。さすがの竜也もキレた。
「ふざけるなババアッ!だれがお前のケツなんかさわるんだッ!」
中年女はメソメソと泣き出していた。
「警察を呼んでちょうだい。早く警察を呼んで!」

 この事件の収拾に当たったのが、入社二年目の千佳だった。テキパキと聞き取り調査を行い、被害女性には詫びた。そして示談を持ちかけたのだ。
「これが弊社としての最大限の誠意です」
事を荒立てるのはお互いのためにならないんじゃないですか?そんな有無を言わせぬ圧力に、中年女はスゴスゴと退出していった。

「あなたへの処分はいずれ発表されます。それまで自宅待機してください」
凛々しくきっぱりと言い切るその姿は、とても新人OLとは思えない。
「処分って・・・。私は無実なんですよ」
「事実関係は分かりません。当事者しか知らないことですから。ただあなたにも隙があったんじゃないですか?聞くところによると、商談ダメだったそうじゃないですか。会社に大きな損害を与えた訳だから、それなりの処分は当たり前でしょ」
アナウンサーが原稿を読むように、千佳の語りにはまったく淀みがない。ただうな垂れて聞いているしか、竜也には方法がなかった。

『角紅ドライビングサポート勤務を命ず』
名前は格好いいが、運転手だ。役員や上級管理職の送迎が主な仕事だ。地下駐車場の詰め所で配車要請を待つ。そんな生活を数年も続けていくうち、本部に戻りたい、営業マンとしてまたバリバリ働きたいという気概は薄れていった。
 その一方で、千佳に対する憎しみは増していた。
(あの女、許せねえっ!いつか素っ裸にひん剥いて、俺の前に跪かせてやる!)

「男を挑発しといてセクハラもねえだろ」
竜也が枝豆のさやを叩きつけた。
「でもいい女でしたねぇ。俺もうチンポ勃ちそうでしたよ」
そう答えたのは和田悟。セミナー終了後、渋谷の街に繰り出したのだ。
 竜也と悟は同期入社。といっても悟は高卒なので、歳は四つちがいだ。グループ会社で倉庫の入出庫業務や、コンテナの修理に従事している。合同入社式で知り合った二人は意気投合し、今では毎週のように飲み歩いている。
 結局その日はナンパは不発。デリヘリ嬢でも呼ぼうということになって、ラブホ街を徘徊していた。

「あ、兄貴っ!あれっ!」
悟が指さす方向から、ビジネススーツに身を包んだ美女が二人こちらに向かってくる。まぎれもなく千佳と舞依だ。慌てて駐車々両の陰に隠れた。
 ホテル前で女たちの足が止まった。ヘッドライトに浮かび上がる舞依の顔は、どこか蒼ざめているようにみえる。イヤイヤをするように2、3回かぶりを振ったが、ピタッと肩を寄せる千佳に半ば強引に押し込まれ、そして消えていった。
「マジかよ」
 淫靡なネオンサインに飾られた安手な作りのラブホテルを見上げながら、竜也がいった。
「いい写真撮れましたよ」
最近買い換えたアイフォーンの高画質に、悟もご満悦だ。
「いつか千佳と舞依の大股開きの写真でアルバム作りたいですね」

そのいつかは意外に早くやってきた。


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