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天国に一番近い地獄
【学園物 官能小説】

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井岡姉妹の憂鬱と葛藤-1

 智は歩に不審に思われないように気をつけつつそっと歩を抱きしめた。小さなカラダは表面は柔らかく、しかししっかりした芯がある。これまでの人生の中で、異性を抱きしめたのは初めての経験で、女の子のカラダってこんなに柔らかいんだ、と奇妙な感想を抱いていた。
「井岡。いったいどうしたの? なにかあったの?」
 ヒックヒックとしゃくりあげていた少女が少し落ち着いたようなので、椅子に座らせる。智のズボンの前は不自然に突っ張ってしまっているが、それを上着で隠し歩に向き合って座る。
「なあ、どうしたんだって? 何かあった? 誰にも言わないから、先生に話してごらん」
 思いつめたような表情を浮かべていた歩だが、不意に口を開くと、
「先生、あのね・・・。私、私、お家に帰りたくないの・・・。」
 思いがけない言葉が口から飛び出した。

 歩の話を要約するとこうだった。
 最近は両親の仲が上手くいっておらず、顔を合わせると喧嘩ばかりしているらしい。さらに、機嫌が悪い時には八つ当たりのように、歩や姉ににつらくあたる事もあると言うのだ。


「・・・・・・そうか。」
「うん。だからね、私、お家に帰りたくないの・・・。」
 また、歩の瞳にうっすらと涙がにじんでいる。
「わかった、わかった。その事は先生に任せておけ。どうすればいいか、一緒に考えていこうね。でも、今日のところは早くお家にお帰り。そんな時だし心配かけちゃいけないよ」
「・・・うん、わかった。私、お家に帰る。でも、この事は誰にも言わないで。先生、お願いね」
「ああ、だいじょうぶ。誰にも言わないよ。心配しないでいいからね」
 とりあえず安心させるようにそう言ってやると、悩みを話せてすっきりしたのか、歩の顔には笑顔が戻った。ただ、その少し腫れた潤んだ瞳をみて智は胸が詰まる思いだった。

 歩が落ち着いてから帰りの支度をさせ、ランドセルを持たせてやる。
「じゃ、先生帰ります。ごきげんよう」
「ごきげんよう。気を付けて帰るんだぞ。何か困った事があったらすぐに先生に連絡しなさい」
 スマホを掲げ歩に微笑みかける。
 帰宅準備をしている時にLINEの交換をした。児童や生徒とプライベートで繋がることは学園では禁止されていた。女子高生に対する邪な思いを胸に秘めていた智ではあったが、ここまでは職務に忠実に勤めてきた。初めて職務規程に反する行為をした。
「は〜い。」
 さっきまで、あんなに落ち込んでいたのがまるで嘘のように元気よく手を振りながら、歩は教室を後にした。
 歩が去った教室でしばし考えにふける智。ズボンの中のこわばりが治まるにはもう少し時間が必要だった。

 次の日の朝、ふだんよりも早く智は初等部の職員室にいた。
「えーと、確かこの学園は生徒の家族構成とかもデータとして入れてあったよな。」
 慣れた手つきで、教務関係のデータベースにアクセスする。
「えーと、飯岡、飯山、井岡。あった、あった、これだな。」
 この学園では生徒の成績から健康診断のデータ、家族の職業、学歴に至るまで全てデータが登録されている。
「ふーん、なるほど。親父は世界でも有名なバイオリニストにして作曲家。母親は元女優?? 姉もこの学園にいるのか。それにしても漫画かドラマみたいな家族構成だな、こりゃ」

 セントカトレア女学園は、良家の子女が多く通っている。会社社長や重役なんていうのはざらで、政治家や芸術家といった類の娘も多い。
 保護者会に来た歩の母親を思い出す。セレブ系マダムの品評会みたいな様相になるのだが、歩の母親はその中にあって凛とした美しさがあった。元女優と言われてもその名前に記憶はないが、なるほどと思わざるを得ない女性だった。
「なんでこんなに恵まれた環境なのに・・・。金持ちは理解できないねぇ」
 大きく溜め息をつくと、智は椅子にもたれかかって大きく伸びをした。


「どうかしました、稲葉先生? 難しい顔をしてますよ」
 放課後、職員室の自分の席で歩の事について考えていると、突然後ろから陽子に声を掛けられた。陽子は初等部の英語の授業も受け持っていて、時々初等部の職員室にも顔を見せる。
「あ、いや別になんでもないです。」
「そうですか。なんかクラスで問題でも起こっているのかと思って・・・。この間からなんか稲葉先生、ずっと難しい顔して考え事なさってるから」
「いや、ほんとに何でもないですよ」
 陽子が自分のことを気遣ってくれる。そう思うだけで頬が高潮してくるのがわかる。
「あ、そうだ・・・。あの、確かうちのクラスの井岡の姉って先生のクラスじゃなかったでしたっけ?」
「井岡? ああ井岡 美雪ちゃんの事ですか?」
「ええ、そうです。その井岡です。確か、クラブも英語部で先生が顧問なさっているんですよね?」
「ええ、まあそうですけど。どうかしました? 美雪ちゃんの妹さんに何かあったんですか?」
「あ、いや別にそんな事はないですよ。ただ、井岡から姉も同じ学園にいるって話をこの間聞いたもんで・・・」
「そうですか。・・・とっても良い娘ですよ。美雪ちゃん」
 姉に何か変化があれば、陽子からも話が出るはずだが、と思い話を振ってみたのだが、それ以上、姉に関する話は出てこなかった。一瞬、姉の話をしたとき陽子の表情が驚いたように見えたが、すぐにいつもの陽子に戻ったのでさほど気にはならなかった。ただ、その後に陽子が
わずかに微笑んだのを智は見過ごしていた。


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