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『BLUE 青の季節』
【青春 恋愛小説】

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『BLUE 青の季節』-25

「どうかお願いします」

と電話の相手は言った。
遥の母親だった。

「あの子はずっと貴方の名前ばかり呼んでいるんです。熱でうなされたみたいに何を聞いても貴方のことを・・・。お願いします。遥のそばにいてやってください」

目を瞑り、あの暗い病室で静かに眠りについている遥の姿を浮かべた。
独りぼっちで、苦しそうにもがきながら、それでも闘い続けている。


レースの時間は、もうすぐそこに迫っていた・・・


「できません」

きっぱりとした口調で信は言った。

「どうして・・・!?」

「遥がそれを望んでいないからです。彼女が出来ないことを俺がしなきゃいけないんです」

息を呑むように母親の声が聞こえなくなった。

「それになによりも、俺は遥を好きになって。
・・・ほんの少しだけ、泳ぐことが好きになりました。毎日の部活が楽しくなって、こんな言い訳ばかりの自分にも、自信がもてるようになれたんです。
全部、アイツのおかげです・・・」

放送がスピーカーを通して鳴り響いた。アナウンスがかかる。もう、行かなくちゃ。

「伝えてください。遥に。“頑張れ”って。失礼します」

母親が何か言おうとしたけどそのまま受話器を置いて、信は走りだした。


入場口の通路には水泳部のみんなが待っていてくれた。信は木本の前に駆け寄ると、小さく腰を折って頭を下げた。

「すいません、すぐ準備しますから」

「大丈夫なのか?」

と木本は言った。

「はい」

「・・・辞めても、いいんだぞ」

信は首を振った。

「いやです」

信はいった。

「遥と、約束しました。もう逃げないって」


タケルの隣で美津子が心配そうな眼差しでこちらを見ている。信はポンと美津子の肩をたたくとゆっくりと競技場の奥へと向かった。

「信」

呼び止める声に気が付くと、タケルがいつのまにか追い付いてきていた。信は歩調を緩めると、彼に合わせて並ぶように歩いた。

「頑張ろうぜ。インターハイは目の前だ」

「ああ、しっかり応援してくれよな」

「バカ。俺も出るの。じゃなきゃここまでくるかよ」

タケルが苦笑しながらそう言うと、信も思わず笑ってしまった。
この人懐っこい笑顔に何度救われてきたのだろう。タケルや美津子がいなければきっと自分の気持ちに押し潰されて負けていた。二人がいなきゃ何も始められなかった。


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