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先頭走者の視点
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先頭走者の視点-1

鼓動が聞こえる。
風が駆け抜ける。
息があがる。
肺がきしむ。
あと少し、あと少し。
目に映るのは僕の前を走るランナーの背中だけ。
僕の目標。
越えるべき存在。

脚が痛い。
汗が流れる。
ペースが落ちる。
離される、離される。

グラウンドに入るとその背中はゴールに吸い込まれて消えた。

僕もゴールをようやく踏む。
前かがみになって息を正しタオルで汗を拭う。
自己記録も更新されなかった。
悔しくなって、息も整わないうちにまた走る、走る。
届かなかった距離。
埋まらなかった距離。

疲労から速く走れない。
疾走感がない。
悪循環。

明日は大会なのに。
明日もこの葛藤と歯痒さに打ち勝てないのか。

家に帰ってシャワーを浴びる。
火照った体が癒えていく。
悔しさだけはなかなか癒えない。
未熟さを覆い隠すために体を拭いて服を着替えてまた走る。


眠れない。
緊張と不安と自己嫌悪。

夜が明ける。
重い体をひっぱって現地へ向かう。 
重いのは体じゃなくて心。
スタートの合図で走りだす。
すべてはゴールまで置いておこう。
無心に走る、走る。
ただ前だけ向いて。
走る、走る。

そして
気付くと先頭にいた。
いつもの背中はない。
走る、走る。

ふと、我に還る。
何を目標に走ればいいのか。
何をめざすのか。
不安がリズムを乱した。
初めてみる先頭からの景色はいつもと違う重圧を与える。
後ろから感じる気配、足音。
近づいて、近づいて。
一層重いモノがのしかかってきた。
いつものあの背中もコレに耐えていたのか。
打ち勝っていたのか。
未熟さを思い知った。
影は僕を捕えて
抜き去る。
いつもの景色に戻った。
見慣れた背中。
安心できる景色。

リズムが戻った。
だけどコレはあの背中を抜けないリズム。
勝てないリズム。

僕は目をつぶる。
そして
開く。
近づいて、近づいて。
いつもと違うのは
リズム。
先頭を走ってわかったから。
あいつの重さを知ったから。
息があがっても走り続けてやる。
走り続けてやる。
ゴールが見えた。
ラストスパート。
あと少し、あと少し。
届け、届け。

速く、速く。


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