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女王と俺の奇妙な日々
【ファンタジー 官能小説】

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存在の価値-3

鳥の声に目を覚ました。寒さを感じた。女王はいなかった。
口の周りに女王のにおいが残っている。毛が何本か、舌に絡まっていた。取り出したら緑の陰毛だった。顔中が女臭い。右手に女王の腰巻きを掴んでいる。全裸だった。
股の鈍痛に加えて、体が重い。二日酔いに似た不快感が全身に満ちていた。よく知った不快さだった。
ふと、いわれのない悲しみが、降ってくるように心に湧いた。いや、むしろ、自分を取り巻いている悲しみに後から気の付いた感があった。
これは、鬱と、薬の副作用だ。
日本の、俺の部屋に、俺は戻っていた。
俺は呆然とした。
枕元の時計を見たら、日付けは一日しか変わっていなかった。しかし本当にそうだろうか。記憶にも自信がなかった。
ようやく起き上がった俺は、体の薬を汗に出してしまおうと考え、風呂場へ向かった。腫れた股間が邪魔で歩くのに手こずった。
蛇口をひねった。湯が出始めた。便利なものだと思った。その場を俺は動かず、激しい轟きに似た水音を聞いていた。鬱の麻痺した時間感覚のおかげで、風呂桶が満杯になるのを待った気がしなかった。
体と頭を洗った。伸びていた髭を剃った。存分に汗をかいて、湯から上がった。さっぱりとはしても、気持ちの晴れることがない。
歯を磨き、コーヒーを淹れて飲んだ。久しぶりのコーヒーは何だか嬉しかったが、その香りを嗅いでみて、ふと、トパルミラの小便が恋しくなった。
それからパンにバターを塗って二枚食べた。味をあまり感じない。
部屋の空気に灰色が漂っているようだった。
ここに希望はないと思った。
窓の外は秋。空は青く高く澄んで、町には紅葉が見える。命を諦める最期の輝きにも似たこの美しさが、鬱の気分にはふさわしい。しかし、あの力ある夏空が俺には懐かしかった。
俺がいないと女王はどうなるのか。あさって来ると言ったヌメルカミラは? トパルミラは心配するだろう。そういう不安が俺を捉えた。
頭は回らないし、不安は無くならない。意味もなく、鬱は不安をかき立てるものだ。杞憂という言葉があるが、一体、生きていて本当に杞憂ということはあるのかと思うと、怪しいものだ。確実なことこそ無さそうだからである。では、人は何に安心し、何に不安になるべきなのか。
それでも、この不安は真っ当なものかも知れないと思えてきた。俺は俺自身のことでなく、他人の心配をしているのだ。無論、人を心配する気持ちの中に、自分が関わっていたいとのエゴがあるかもしれない。
彼の地で俺には、自分が必要だとされている感覚があった。そして、それを自分も喜べていた。押し付けられた義務ではあっても、頼りにされていた。
ここにそういうものは無かった。生きる希望とは何か。また、絶望とは何か。
冷蔵庫を開けて、俺はもっぱら酔うためだけにワインを取り出した。


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