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私立花乃森女学院 〜 目覚めの時
【同性愛♀ 官能小説】

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温泉ボックス席-1

 「不思議なものよね。」
 「何がですか?」
 「例えばプールで全裸になると騒ぎになるのに、ここではみんな当り前にハダカじゃない。」
 「言われてみれば…。お風呂だから、って言ってしまえばそれまでですけど、確かに不思議ですね。」
 広い広い花乃森女学院の敷地内には、いくつもの合宿棟がある。それが運動部も文化部も高い実力を誇るのに一役買っているのは間違いないだろう。
 合宿棟は、各部ごとにだいたい同じ所を毎年使う。彼女らが所属する吹奏楽部の場合は、『A7フィアー』と呼ばれている建物だ。
 女学院の敷地には、開発順にAからHまでの地区があり、歴史の長い吹奏楽部は最初期に開発されたA地区の七番棟が定宿になっている。フィアーというのはドイツ語で四のことで、改修を三回受けた第四世代の施設であることを表している。
 そんなA7フィアーにはちょっとした温泉旅館並みの風呂がある。そしてそれは少々変わった構造になっている。
 大きな湯船の一角に、ボックス席のように壁に囲まれた区画がいくつかあるのだ。
 洗い場ならばそれは特に珍しいものではないが、湯船に半個室を設置したのはなぜなのか。
 数人の学生同士が共に湯につかり、身も心も温まってほぐれた状態でホンネの話が出来るように、という意図だと言われているが、本当の所は誰も知らない。
 今、そんなボックス席の一つで、凛花と彩音は並んで湯に浸かっている。夕食後の夜練習を終えて、一息ついているところだ。
 「それにしても、びっくりしましたよ。水中だとはいえ、他にもたくさん人のいる屋外のプールでいきなり触ってくるんですから。」
 「イヤだった?」
 彩音は凛花から視線を外し、湯面を見つめた。
 「…正直に言っていいですか。」
 「もちろんよ。」
 彩音は唇をキュっと結び、なかなか話しだそうとしない。
 「言いにくいのなら、無理には…」
 「いえ、聞いてください。」
 顔を上げた彩音は、真っ直ぐな目で凛花の方を向いた。
 凛花は、今は眼鏡を掛けていない切れ長の目でその視線を受け止めた。 
「…話して。」
 彩音は大きく頷いて話し始めた。
 「イヤ…じゃなかったんです、信じられないんですけど。だって、私も凛花先輩も女じゃないですか?」
 「そうね。」
 「それなのに、先輩は折に触れて私の体に触ってくる。そして私は…最初はワケが分からなかったけど、だんだんそれを…あの…気持ちいい…と感じるようになってきて。」
 凛花は口を挟まず、頷いて先を促した。
 「相手が男の人なら、不自然には感じなかったと思うんですよ。私だってあと数年で成人する女なんですから、男の人に対して、いわゆる…性欲を、感じても、自分にもそういう本能があったんだな、と思うだけで。実際、男性経験はまだありませんけど、男の人に体を触られるところを妄想して、自分で…。先輩には見られてしまったので正直に言うんですけどね、自分で自分の体を触って気持よくなって最後には…。そんな時もあります。でも、どうして同性の凛花先輩に触られて同じように気持ちよいと感じてしまうのか。」
 一気に話し切った彩音は頬を染め、俯いた。
 「なるほど。よく分かるわ。私もそうだったから。」
 「私も?」
 ふ、と口元に微笑みを浮かべ、凛花が話し始めた。
 「そう。私もね、同じような経験をしたから。自分はいずれ男の人と恋愛して体の関係を持って…ってなんとなく思ってた。だけど。」
 彼女は扇ぐようなしぐさで自分の肩に湯を掛けた。
 「私はあの人と出会った。そしてあなたと同じように触られているうちに…女から与えられる体の悦びを知った。」
 「女から与えられる体の悦び…」
 「そう。それについてあなたは一つ大きな勘違いをしているけどね。」
 「勘違い…ですか?自分でするのと同じように気持ちいい、というのはおかしいんですか?」
 「そうじゃなくて。同じように気持ちいいんじゃなく、別次元の悦楽よ。快感の深さが全然違う。快楽の質が違うの。」
 彩音は、よく分からないという顔をしている。
 「ごめんね、それに関しては私が未熟なせいだと思う。まだまだあなたを十分に悦ばせてあげられてない。」
 「それって、私の側にも問題があるんじゃありませんか?」
 凛花は彩音から視線を外し、遠い目をした。
 「問題…か。」
 苦笑いしている。
 「そうなんですね、問題があるんですね?」
 「問題、ではなくて、壁よ。真の悦びに到達するためには、あなたには破らなければならない壁がある。」
 「壁…。どうやったらそれを破れるんですか?」
 凛花はイタズラっぽい目で彩音を見た。
 「ねえ彩音。今、自分の言ってることの意味、分かってる?」
 「え…」
 「壁を破って真の悦びに到達する。それって、私と何をするの?」
 「あ…。そ、そ、そ、それは…」
 彼女は真っ赤だ。
 「正直分からないわ。」
 凛花はバタ足をするようにお湯を掻き回した。
 「どうすればあなたに壁を破らせることが出来るのか。あるいは壊してあげることが出来るのか。でもね、私は到達したいの、あなたと一緒に。」
 「凛花先輩…」
 無言で見つめ合う二人。
 どちらからともなく顔を寄せ合い、唇を…
 「おいこらー、見せつけるなって言ってるじゃないのー。」
 「あ、秋本先輩…」
 「由衣…」


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