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美雪
【学園物 官能小説】

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美雪-2

 大体方向音痴の人間にはいつもの景色だって別の方角から見ると全く違った景色に見えるのである。だから滅茶苦茶に走って偶々知っている場所に出たとしても全くそのことに気づかないのだ。それで何時まで経っても帰れなくなる。誰かに道を聞いてもそれは殆ど役に立たない。目の見えない人に物の形を説明するのは特別な熟練を要するもので、普通の人には目の見えない人に分かるような説明の仕方は出来ないものである。同様に普通の人には方向音痴の人にも分かるような道の説明など出来ないのである。
 妹の美雪は哲治のことを良く知っているから、どこかへ行くから地図を書いてくれと言えば、絵と文の入り交じったメモを5〜6枚書いてくれる。哲治が知らない場所1カ所へ行くのには、そういう配慮が必要なのである。普通の人なら○○駅の東口を出てまっすぐ行って・・・と説明すれば足りても、方向音痴の人間にはそれでは通じない。どの駅だって大抵大小は別にして駅前にロータリーがあり、真っ直ぐ歩けば駅の前をグルグル歩くことになるのである。とにかく方向音痴というのは普通の人には全く理解出来ない特殊なもので、多分脳か神経の一部に異常があるのだろう。だから哲治はカラオケに行って歌の下手な人に出会っても音痴だとは決して思わない。本当の音痴だったらきっとどこか発声器官か何かに異常があって歌が下手なのではなくて歌には聞こえないようになってしまう筈だと思うのである。自分の方向音痴に関する知見から考えてそう思うのである。
 もう少し説明すると、通いなれた道を歩いていたって道に迷う。ちょっと途中の本屋に立ち寄って雑誌をパラパラ読んでから又歩き出すと知らずに元の方向に向かっているということが良くある。そのことに気づくと、単に引き返すのが恥ずかしくて「あっ、そうだ。忘れてた」などと呟きながら何か思いだしたようなふりをして引き返すが、誰もそんなことを見てやしないのだ。デパートや大きなスーパーに入れば必ず自分の入った入り口が何処だったか分からなくなる。そして別の入り口から出れば必ず迷う。既視感と言えば済むものを近頃は気取ってデ・ジャ・ヴなどと言うようだが、それは見たことが無い景色を見たことがあるように感じることを言うのであり、哲治の場合には逆に見たことがあるのに見たことが無いように感じることがしょっちゅうなのである。だから直ぐに迷ってしまう。そんな時は自分の入った入り口に出るまで建物の周りをグルッと一周して歩くのである。哲治の方向音痴はそれくらい本格的なものだから、初めて行く病院では、妹と一緒に行くのはやむを得ない。


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