12-1
「私の部屋にどうぞ」
「買ってきたケーキ食べよう」
「紅茶を入れるね」
座ってケーキをフォークでつつき出すと、玲於奈さんが話し始めた。
「昨日は救ってくれて本当にありがとうね」
「びっくりしたよ。玲於奈さん、横倒しになるんだもん」
「急に視界が狭く暗くなって、誰も呼ぶ間も無くて本当に怖かった。
これでおしまいかと思った」
「水分摂ってなかったから、大丈夫かなって思ってたんだ」
「私のこと、見ていてくれたの？」
「…うん。いつも見ていたの。玲於奈さんの走る姿、綺麗で好きなの」
「ありがとう。私、嬉しい」
玲於奈さんは本当に嬉しそうな顔をして、真っ直ぐに私の顔を見る。
玲於奈さんの顔をまともに見ていられなくなる。
私、照れちゃう。
綺麗なあなたの汗や膣分泌物や、排泄物の味まで知ってるのに。
「湿度が高いと汗が乾かないから。
走っている時は風が起こるけど、止まると熱がこもっちゃうの。
昨日は風が無かったし、季節の変わり目で体がまだ順化してなくて熱中症になっちゃったんだね」
「詳しいんだね。なんて言うんだろう？そー言うの」
「救急救命」
「そう、それそれ。
鎌田先生が感心してたよ。的確に処置ができてて、どこかで訓練を受けたんだろうって」
「あー…。うん。救急救命の講習会に出てるの」
「それは、人口呼吸とかAEDとかそーいうヤツ？」
「そう。お父さんと山に行くから。お父さんに何かあったら助けられるの私だけだし」
「山登りするの？趣味なの？」
「うん。小さい頃からお父さんと山に入ってるの」
立ち上がって、本棚から写真立てを取って玲於奈さんに渡す。
「これ」
「わぁ。この写真どこ？砂漠？外国？」
「富士山の火口の中なんだ。去年お父さんと登ったの」
「すごいね。違う星みたいだね。高野さんは私の知らない世界を歩いてる」
玲於奈さんは目をキラキラさせる。
「私も見てみたいなぁ」
鎌田先生が言ってた。巡って来た星は絶対捕まえろって。
「登ってみる？二人で」
「私たちだけで？行けるの？」
「天気が良ければ大丈夫だよ。ちゃんと準備して無理しなければ登れる。
私、お父さんと何度も登ってて、仕込まれてるから」
「行く！私もこんな風景を見てみたい！」