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君と僕との狂騒曲
【ショタ 官能小説】

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君と僕との狂騒曲-8


 ボーイスカウトのキャンプにはだいたい決まった年間のローテーションがある。
 ひとつは7月の準備キャンプ。3泊4日ぐらい。そして8月の本キャンプが6泊7日ぐらい。本キャンプは山梨や長野や静岡やら、遠隔地で行われる。(記憶はさだかではないが、おおむね清里。清里にはこの街の保養地があった。)それと春や秋に、地主の許可を得ているゆるやかな谷でする主に訓練を目的にしたもの。他に班が自主的に行う一泊か二泊のキャンプ。

 自主的にするやつに特に決まりはない。たくさんやればやるほど現場での実力が身に付いてくる。特にだらだらしていると、必ず後で苦しくなる事を覚えることが出来る。

 準備キャンプと本キャンプはめちゃくちゃなスケジュールをこなしてゆくハードなやつだ。時には本当に命が危なくなる事も多い。(考えてみると、やらせるリーダー達の根性には頭が下がる。)
               *
 ところで、ボーイスカウトの技術的なものはボーイスカウト発祥の地であるイギリスのルールであり、「スカウトブック」というマニュアルがあるが、それをそのまま適用するのは不可能だ。なんてったってイギリスには山や谷はなく、ほとんど平らな国だから。日本とは180度異なる環境である。しかし水源を探すロケーターをはしばみの枝でやってしまうなんて凄いし、「野帳」という目的地までの全てをたった一本の線でやってしまう技術も素晴らしい。 結索法はさすがにロイヤル・ネイビーの国だけに世界一多彩だった。

 キャンプのスケジュールを埋め尽くすミニ・ハイクは、スカウトブックに載っている暗号で満たされている。例えばアスファルトの道に規則的な形で石や小枝が並んでいたら、間違いなくそれはサインであり、法則に従って草むらを探すと、一枚の指令書が発見出来る。

 そうやって謎を解きながら進めば、正しい場所にたどり着ける。ロールプレイング・ゲームを現実の形で行う、考えようによっては楽しいハイキングだが、隊付スタッフの誘導が適切でない、あるいは難解な場合は知力と体力を総動員したあげくに出来なかったら、ゲームオーバー。これは結構屈辱的で、班長以下全員が失意の苦い味わいを経験するはめになる。班単位で行う以外にも、単独、もしくはふたりで行動することもあった。

 それ以外に山道に分け入りながら地図を分析して決められたコースを歩くハイキングも多かった。その場合は「野帳」と呼ばれるプロセスに従った「記録」を取って歩くのが基本だ。

 僕らは「勉強」と「実践」を同時にこなしていた。
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 君はスカウトブックや論理的に正しい形で全てをこなすけれど、時に突発的な事件にはひどく弱かった。前にも言ったとおり、僕らはコインの裏と表みたいなもの。論理的に破綻する問題は僕が全てを解決した。 大部分は「無謀だからやめよう」という言葉だけだけど。君は一度決めた計画を変えるという事にひどく傷ついたね。僕はそのフォローのために、論理的で君が納得するだけの根拠を道々話したものだ。

「あのさ、マキ。国土地理院の地図ってのは十年以上も前のものだし。この多摩丘陵は日本でも有数の通勤圏開拓地だ」

「ふむ。」

「で、目の前にある崖は明らかに開発という現象だ」

「うーん……」

「例えれば運河みたいなものさ。目の前に新しく出来た運河を、無いはずだと言って溺れる馬鹿じゃないよね。だから、迂回する。バスコ・ダ・ガマだって、先のことはその時判断するしかないんだ。嵐は避ける物だよ」

 そう言って強引に歩き出すと、君は首を振って自分を納得させてから、僕の後を追った。
 ハレルヤ。君のために僕が役にたつ。なんて素敵なことだろう。
               *

 とおき やまに
 ひはおちて
 とりは そらへ
 かえらなん

 遠い暗闇に小さな火を揺らしながら黒い人影がうごめく輪の中に入り込み、がっしりと組み上げられた薪に火が灯される。灯油が染みこませてある薪はあっという間に燃え上がり、僕たちの顔をフレンチ・ヴァーミリオンに染め上げる。炎に爆ぜる音は僕たち全員のハミングの音をかき消した。夜空を切り抜いたような漆黒の糸杉が、ヴァン・ゴッホの「星月夜」のように浮かび上がる。まだ「キャンプファイアー」なんてものがそうスタンダードではなかった時代、僕たちにとってのそれは神聖で、侵される事のない聖夜の儀式だった。


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