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君と僕との狂騒曲
【ショタ 官能小説】

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君と僕との狂騒曲-20


 君は「ゼライス」と言って戯けた。確かにその穴は夏でもぞっとするほどの冷たい空気が流れていて、ちょっとした冷蔵庫だ。「ゼライス」が作れるかも知れない、という理由。
 ここらへんも君と僕の対照的な性格がよくわかる。僕は甘い物が苦手で、君は甘い物に目がなかったからね。でも、料理人の僕は手近に冷蔵庫があるのは便利だった。まだその時代は保存剤みたいなものが生まれる前で、食料は必ず「腐る」ものだったから。
               *
 さて、「仮面」の裏側では僕は「狂気」と名付けられた領域に落ちる断崖絶壁の縁になんとかつかまっていた。血まみれの指に、剥がれた爪で、何とかしてこのダンジョンを生き延びるために。学校の体育の時間には、水疱瘡のように見える自傷の後が見えないよう、真夏でも長袖のトレーナーを着て、水泳の時間は全て休んだ。

 かなり痩せていたし、貧血を起こすため、体育教師は僕の休みを許してくれた。もともと「根性さえあれば何でも出来る!」というきつい先生だったが、僕のままならぬ歩行と嘔吐、顔色と目の下のアイシャドウを見れば、さすがに無理は言わなかった。

 父と大喧嘩をして父の肋骨を折ったのもこの頃だ、父は「ふざける」真似をして、母の方についた僕に喧嘩を売ったのだ。いつもの裏拳が僕の鼻にヒットして、僕の鼻からは血が流れ出した。そして、始めて僕は自分の家庭でキレたのだ。

 父はボーイスカウトを舐めていた。僕はその場で跳躍し、至近距離からの強烈なドロップキックを放った。父は次の間の反対まで吹っ飛んでその場で座り込み、「ふざける」は一瞬で終わった。父はうめき声で、「ボーイスカウトはヤクザと同じだ」と叫んでいた。まあ、違うとも断定は出来ないが。

 翌日の外科の検査で、父は二本の遊離肋骨を骨折していた。僕に言わせりゃ、そんなもん放っておけば治る。でも父は、いかに息子が卑怯で、嘘つきかを延々と医者に話していた。父に必要だったのは、外科ではなく精神科だ。

 僕は心理学や精神病理学の本を精読してたので、父の病は簡単に分析できる。父の病気はどこから解析しても「偏執狂」。パラノイアだ。父は恐ろしいほど小さく、正確な字で、競馬の結果やあらゆる闘争的な傾向や状況の異なるレースの結果を記録し、大きな段ボールふたつにぎっしりと書き込んでいた。

 それから(おぞましい事に)僕を産むために使った金銭、(僕は帝王切開で産まれた)僕にかかった教育や食事のコストまで全てを書き込み、記憶していた。そして、自らが老いたとき、いかにして子供の養育にかかった金銭を払わせるか、もしくは面倒を見なくてはならないか、コストはいくらか。それを知ったとき、どんなに僕が危なくなったか、想像力のある人なら、そこそこ理解できるだろう。違うかな。
               *
 ところで夏の本キャンプはどうなったのか?実は僕は本キャンプに参加できなかった。


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