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CandyRAIN
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CandyRAIN-1

昨夜から降り止まぬ雨 Monday Morning baby。憂鬱な月曜日。
リリィは窓から外を見てる。真っ白な壁の病室と、真っ白な肌の君を思い浮かべると、なんだか僕は哀しくなるんだ。
ねえ、リリィ。まだ六歳の君の瞳には、この世界はどう映っているのか。
信じてもいい? その景色が美しいものだと。まるで、シンプルなロックンロールみたいに。華やかで、美しいものだって。

「笑ったりしない」僕は言う。白い肌の天使に向かって。
「ホントに、笑わない?」そんな前置きをして、少し恥ずかしそうに、天使は語る。

天使は夢を語る。
空から色とりどりの飴玉が落ちて来る。
それが見たい、と。
「キャンディーレインだ」
「キャンディーレイン」僕に続き、リリィは言う。「とてもいい響きの言葉ね」

ダンボール十二個。僕は軽トラックの荷台のそれを見つめている。降り続いていた雨は、二日前にやんだ。完璧なHappystory。二度頷き、首輪の縫い付けてあるベルトに両手をかける。

リリィは大切な友人の子供で、父親はいない。
天使が産まれる前に、男は姿を消した。だから僕は、いつも親友と、リリィの側にいた。

「おいで」僕はリリィを車イスに乗せ、病室を出る。
「ねえ、スカイちゃんは元気?」
「勿論だよ」僕は頷く。
「オーシャンちゃんも元気かな?」
「元気さ。こないだ、ママと散歩に行って来たばかりだ」
「いいな。私も散歩に行きたいな」
「すぐに行けるさ」僕は確信を込めて言う。「スカイもオーシャンも、リリィと散歩が出来る日を心待ちにしてるんだ」
「ホント? 嬉しい」
僕は微笑み、裏庭を見渡せる広い談話室へリリィを導く。
そこに、天使のママが待っている。桜色の貝殻のペンダント、首元に僅かに揺れてる。
「じゃ、いっちょやりますか」僕が言うと、親友は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「また、無茶な事考えてさ」
「全然無茶じゃないよ」僕は笑う。そして二人を残し、屋上へ。

屋上には強い風が吹き付ける。規則正しく並ぶダンボール。中には色とりどりのキャンディー。
Hey angel.僕は呟く。とびきり明るい声で叫ぶ。
Are you ready? Let's party.

夕暮れの街。雨が降る。天使のいる、その場所は特等席。
Candy rainだよ、リリィ。色とりどりのキャンディーをばらまきながら、天使に話かける。
夢は叶うんだ。それを忘れちゃいけない。リリィ。君はいつか、真っ白な壁の部屋から抜けだし、華やかな世界へ行ける。
感じるだろう? キャンディーレインの景色の、そのさらに向こうに。

雨は止み、僕はその場にへたりこんで、煙草に火をつける。やっぱ、後片付けしなきゃダメかな、とか現実的な事を考えたりする。 その時、声が聞こえて来る。天使が、どこかの窓を開けて、目一杯の声で叫んだ。

天使は、
ありがとうって
そう叫んだ。
僕へ向けて。

嬉しくて、泣きそうになった。屋上に寝転がり、煙草の煙を夕暮れの空に向かって吹き掛ける。
空は高く、こんな日があるなら、生きてるのは素晴らしいって思える。
お前は見てるかよ? その空から。お前の子供達は元気にしてるよ。
「世界中の皆が幸せになればいいのに」
そんな戯言すら許されそうな、メチャクチャPeacefulな夕暮れ。


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