シルビア-5
「折角来たのに忙しくてゆっくり話も出来なかったね」
「何だよ。それは約束が違うじゃないか。置いて出てくるだけだって言ったのに」
「そうよ。だけど母さんに会って話をするくらいはいいじゃない」
「話ならうちでいくらでもすることが出来るだろ」
「外で話したらいけないの？」
「別にいけなくはないけど」
「母さんを毛嫌いすんじゃないの。竜太郎だって母さんから生まれて来たんだから」
「それが本当に不思議だよ」
「本当ね。竜太郎だけファッション・センスが無いもんね」
「あの母さんの服装がファッション・センスなのか？」
「あれはあれで自己主張があるんだからいいの。買って来た服を自分で改造してわざわざああいう風に作り直してるのよ」
「ヒステリー起こして滅茶苦茶に破いたみたいなあれが？」
「そうよ。だって竜太郎のお父さん見てごらん。あの年にしては抜群の服装してるでしょ。あれ全部母さんのお見立てなのよ」
「へえー。男の服装は結構まともに選ぶんだ」
「そうよ。まともなセンスが無けりゃああいう妙な服なんか着こなせないのよ」
「あんなの着こなすも何も無いだろ」
「どうして？ 似合って無いと思うの？」
「さあ、似合うとか似合わないとかは、それが服のように見えることが大前提じゃないか」
「何生意気言ってんの。竜太郎にファッションは分からないのよ」
「あれもファッションなら分からない。姉ちゃんの方がいくらかマシだ」
「何がいくらかよ」
「さて食事は何処って言ったっけ」
「赤坂だから地下鉄で行こう」
「あのさ、姉ちゃんも母さんも何で黒ばっか着るんだろ？」
「私？ 肌が白いから黒が似合うんだけど、別に黒ばっかじゃ無いよ。黒が厭なら今度は別の色にしてもいいよ」
「そうだな。今度っていうことがあったらそうして欲しいな」
「それじゃ来週はそうしよう」
「何で来週なんだよ。そんな毎週付き合ってらんないよ」
「どうせ何も予定なんか無い癖に」
「来週はデート」
「誰と？」
「姉ちゃんの知らない可愛い女の子と」
「何て名前？」
「どうでもいいだろ。どうせ名前言ったって知らないよ」
「いいから言ってごらん」
「純子っていうんだ」
「純子？ ああ、あれか」
「あれかって知ってるの？」
「セーラー服着て赤いベレー被ってる子でしょ？」
「あっ、見たな」
「やっぱりあれなのか」
「人の部屋に勝手に入って来るなよ」
「洗濯物が乾いたから部屋に入れてやっただけよ。ドアを開ければ正面の壁にドデンって貼ってあるんだから厭でも目に入るじゃない」
「可愛いだろ」
「かなり派手めな顔だよ。やっぱり姉ちゃんと似た女を選ぶのね、自然と」
「何処が似てるんだよー」
「あれで髪を染めてごらん。私の妹みたいに見えるから」
「見えない」
「見えるさ」
「今度の誕生日に眼鏡買ってやらないと駄目みたいだな」
「そん時は私も一緒に行くから１人で買ったら駄目よ」
「どうして？」
「竜太郎が選ぶと変なの買うから」
「僕のファッション・センスを信用して無いな」
「信用して無い」
「黄色い四角い縁の眼鏡買ってやろうと思ってたのに」
「やめてよ。そんな漫画みたいなの誰がするもんですか」
「可愛い弟が選んでも？」
「可愛い弟が選んでも眼鏡まで可愛くなる訳じゃ無いの」
「なるほど、道理だ」
「何言ってるの」
入ったレストランはビルの中にある大きな店で純和風であった。座敷の個室が沢山あり、そこにシルビアと竜太郎は通された。シルビアは細いエナメルのパンツだから膝を折ることが出来ずに脚を伸ばして座っている。あぐらをかいて座った竜太郎を挟むように両足を拡げている。シルビアがちょっとふざけて足の指で竜太郎の脚を擽ったので竜太郎がテーブルの下を覗き込んで見た。