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シルビア
【青春 恋愛小説】

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シルビア-20

 デートの当日、竜太郎はシルビアと買って来た服を持ってまだ昼前の早い時間に母の店に行った。午前中だと言うのにビルの中は若い女性でいっぱいで、母の店にも大勢の客がいた。こんなに入ってるんなら随分儲かっていそうなものだと思うが、そうでも無いらしい。接客中の母が手すきになるのを待って話しかけた。
 「母さん、ちょっと」
 「何? 又失恋したの? こんな朝っぱらから」
 「そうじゃ無いよ。ちょっと母さんにプレゼントしたいものがあって持ってきたんだ」
 「え? プレゼント? 何で?」
 「ほら、インターネットのことで金使わせたりしたじゃないか。だからお礼しようと思って」
 「何だ。あれくらいいいのよ」
 「でも僕の気持ちが済まないから」
 「何それ?」
 「僕が母さんの為に選んだ服なんだ」
 「服?」
 「うん。母さんが独特のセンスで服を選んでるのは知ってるけど僕の感謝の印だから、今日1日は我慢してこれを着て、僕の気持ちに答えて欲しいんだ」
 「へーえ。そんなこと言われちゃ着ない訳に行かないね」
 「そうさ。母の日にもプレゼントなんかしたことが無い僕が、大枚はたいて買ったんだから」
 「そうだねえ。ウヒャー、これは若い」

 それは竜太郎も良く見ていなかったから初めて見るようなものだが、今流行のキャミソール・ドレスという奴で、要するに下着のスリップに色柄が付いているような服である。しかもそれが赤だの緑だの黒だの様々な色の小花柄である。そういう模様がプリントされた透ける生地に透けない裏地が組み合わせてある。もうちょっと年相応のにしたいが今更遅いし、ジプシー占いみたいな服よりはマシだから、竜太郎は母をせき立てて試着室に追いやり、着替えさせた。着替えて出てきた母を見て竜太郎は驚いた。試着室の中で手早く化粧を直したらしい母は、どう見ても20代にしか見えない。膝上10センチくらいのミニだが、その中の透けない裏地はもっとずっと短くて膝上20センチ以上になっている。だから相当なミニである。母の脚など見たのは初めてのような気がするが、悪くない。悪くないどころではない。ボロテントを身に纏ったような格好ばかりしているから不格好な脚なんだろうといつの間にか思いこんでいたが、顔さえ見なければモデルにも劣らないと言えるほどである。顔も化粧を落とすと結構可愛い。流石に金持ちの愛人をしているだけのことはあったのだ。なのに何であんな変な服や化粧をするんだろうか。

 「恥ずかしいよ、母さん」
 「何で?」
 「だって、こんなの着たの初めてだもん」
 「凄く似合ってるよ。正直言って驚いた。母さんて結構可愛いじゃないか」
 「そうかい? 有り難う」
 「今日は1日それを着ているんだよ。僕が出ていっても着替えたりしては駄目だからね」
 「これ透けて無い?」
 「透けそうで透けて無いから大丈夫だよ」
 「そう? パンツが透け透けだから服が透けてるとまずいんだ」
 「大丈夫透けて無いよ」
 「何だか恥ずかしいねぇ」
 「恥ずかしくないよ。偶には息子の言うこと聞くもんさ。後でちゃんと検査しに来るから絶対着替えちゃ駄目だよ」
 「分かったよ」

 店の従業員が気付いていつの間にか全員接客をほったらかして母の周りに集まってきた。口々に「可愛いー」などと言っている。竜太郎はとにかく作戦は成功したと思い、満足して出てきた。

 約束の2時に純子と渋谷で会い、母の店に電話してちゃんと例の服を着ているか確認してから店に向かった。


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