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シルビア
【青春 恋愛小説】

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シルビア-19

 「何が違うの?」
 「紳士服じゃ無いんだ。女の服を買うんだよ」
 「女の服?」
 「だから姉ちゃんに付き合って貰ったんだ」
 「なるほど、そうか。プレゼント作戦という奴か。男の考えることは若くても年取ってても同じなのね」
 「違うよ」
 「違わないでしょ。いいのよ、プレゼントはやっぱり効果があるからね」
 「此処にしよう」
 「そんな所駄目。ババイのばっかりじゃない」
 「ババイって何?」
 「婆臭い」
 「それでいいんだよ」
 「良くない。女の服なら私に任せなさい」
 「いいんだよ。一緒に店に入ってくれればいいんだ。選ぶのは僕が選ぶから」
 「駄目、駄目。竜太郎に選ばせたりするんなら何のために私がついてきたのよ。そんなことしたら一生後悔する」
 「大袈裟だなあ。後悔なんてしないよ」
 「馬鹿ね、私が後悔すんのよ」
 「何で?」
 「悲劇の結末が目に見えてるからよ」
 「悲劇の結末って?」
 「『ナーニ、この服。こんなの私が着るとでも思ってんの? あんたが自分で着ればいいじゃん』『えー、酷い』『この服の方がよっぽど酷いわ』ってんで竜太郎は絶望に追いやられて自殺すんのよ。悲劇でしょ?」
 「何勝手に想像してんだよ」
 「いいから、ほら此処にしよう」
 「あっ、待てよ」
 「ほらほら、可愛い服が沢山あるでしょ?」
 「ちょっとこれは若すぎる」
 「何言ってるの。私が着たっておかしく無いわ」

 竜太郎は実は母に着せる服を買いに来たのであった。純子が驚かないようにせめて服装くらい普通にしておこうと考えたのである。プレゼントするから今日はこれ着てて欲しいと言えばそのくらいはしてくれるだろう。あのメーキャップはどうにもならないが、服が変われば化粧も変えるもんでは無いだろうかと思うのだ。しかし母に服を買ってやるなどと言えばシルビアは根ほり葉ほり聞いて来るに決まっているからそれは言いたくない。シルビアが入った店はハイティーン向けの安い服ばかり置いてある店のようで、若い女性でムンムンしている。買い物している時の女性というのは遠慮も嗜みも無くて、突っ立っている竜太郎を押しのけて商品を見ようとしたりするのはいい方で、「何で此処に男がいるのよ」といった露骨な敵意を剥き出しにして睨む者もいる。それでシルビアが「これがいいと思う」と言いながら商品を持ってきた時には、もうどうでもいいから早くこの店を出たいといった心境になっていて、どんな服を選んだのかろくに見はしなかった。この店にある1番変な服だって今母さんが着ている服より余程マシなのだからと考えて、妥協することにした。シルビアがレジに行って払ってきてくれたので金を渡そうとすると「貸しておく」と言って受け取ろうとしなかった。
 「あるうちに払っておかないと無くなっちゃうから」
 「いいよ。出世払いで」
 「どうして?」
 「可愛い弟の人生がかかっているから。悲劇になるかハッピーエンドになるか姉ちゃんとしては無関心でいる訳に行かないからね」
 「ハッピーエンドになることは分かってるんだ」
 「へーえ。何処から来てるんだろ、その自信は」
 「だって姉ちゃんの弟で母さんの息子だもん」
 「なるほど。聞いたような科白だね」
 「今日は有り難う」
 「いいよ。だけど美容院の件忘れたら駄目よ」

 美容院の件というのはシルビアが美容院に行く度に竜太郎が同行するということなのである。 シルビアは竜太郎が一緒だとうるさいスカウトマンもナンパ目的の男も滅多に近づいて来ないので、外出の時に竜太郎の同行を好んだ。竜太郎はインターネットのことでシルビアに協力を頼んだので、その反対条件を付けられてしまったのだ。インターネットの件はシルビアが言うとおり、たかが月に1万円だから駄目と言う訳は無いのだが、竜太郎が母に何か頼めば父子のコミニュケーションを何とか作り出そうと思っている母は必ず「お父さんに頼みなさい」と言うのである。だから竜太郎はシルビアに口利きを頼んだ。こういう時はシルビアと種違いだということがとても役に立つ。シルビアに対して母が「お父さんに頼みなさい」と言う訳が無いからである。そんな訳でシルビアには借りを返さなくてはならないが、それは先の話、当面の課題はクリアーした。


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