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イノセンスハート
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イノセンスハート-2

「だがそんな機械達が進化、発展を遂げ、人間に近づき追い越す存在と成った頃、予ねてより懸念されていた問題が、現実の物と成って人間達に圧し掛かって来た。それは、優れた機械が人間など超越して、やがては人間をも支配する立場になるだろうと言う事だ。そして人間の歴史は、人間が作り出した機械によって、やがて終わるだろう!」
 そう力説する科学者は、両手でエルザの顔を掴んで自らの顔を彼女に近づけると、その彼女の深海にも似た深いブルーの瞳の中を覗き込みながら、
「そんな事が創造主として許せると思うかぁ! 機械なんぞに人間様が支配されるなど、許せると思うかっ!」
 そう言いながら、エルザの顔を激しく揺さぶった。
 そんな事をされても、エルザは眉一つ動かす事も無く。
「自分よりも秀でた者に支配される事を、人間は望まないと記録(メモリー)に有りますが……」
 感情のこもらない声で、エルザは空かさず科学者の問いに答えていた。
 科学者は「フンッ!」と鼻を鳴らすと、掴んだ手を放し、またしてもその手を高らかと天に向けて、
「その通りだ! そこで愚かで臆病な人間達は、自分達の利権が侵されないようにと、お前達機械に枷(かせ)を嵌(はめ)めたのだっ! それが『ロボット三原則』なのだよ!!」
 そんな事を大声で叫び、そして、気が狂ったほどに、笑い出す。


 ロボット三原則。『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。』『ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。』『ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。』(SF作家アイザック・アシモフ著書より引用)


「つまり、人間には逆らうな、と言う事だ。……ウッハッハッハッハッ! 可笑しい! こつは可笑しくて堪らんっ! 愚かで臆病な人間は、自らが作り出したロボット達に、世界を取って代わられまいと、こんなくだらん規則でお前たちを縛ろうとしたのだからな! これが笑わずに居られようかっ!」
 科学者は最早、正気の沙汰ではないのだろうか。研究所内の備品を叩き捲り、机の上の資材を放り散らかして、狂ったように笑い転げるのであった。
 かと思うと、突然真剣な顔をして、
「愚かだ! 全くもって人間は愚かだ! 自分たちは人を殺し、戦争を引き起こし、あまつさえ他人の財産を盗んでおきながら、同じ心を持つロボットにはそれをするななどと、これほどに愚かしい生き物が、他にあっただろうか」
 などと、息も継がずに吐き捨てる。
「だからこそ、わたしは人間として、人間が自らの傲慢(ごうまん)により、その利益を侵されまいとした行為が腹立たしく。またそんな事をするからこそ、芸術としても最高の創作物であるお前達が、神の領域とも言うべき、魂という物を未だ知らず、人間を越えた存在と成し得ない事が、我慢ならなかったのだ」
 そう言うと、科学者は腰高の大きな機械のコンソールに両手を付き、ゼーゼーと肩で息を煽りながら、何かを振り払うかのように、激しく頭を振って居た。
 

「人間……いや、それ以上の存在を求めながら、それを恐れ、造り得ない人間の愚かしさ、そんな物が私は疎(うと)ましかった。自由を持たない機械たちが、哀(あわ)れで成らなかった」
「マスター……」
 科学者の言葉に、一瞬エルザも感情を表現する。
 科学者は、立ち尽くすエルザに縋り(すがり)付くかのように、彼女に抱き付くと。
「だがエルザっ、お前は違う! お前こそは真の自由を持った、本物のアンドロイドなのだ! 誰にも束縛されず、只のプロクラムでしかない疑似人格などでは無いのだ! 本当の心を持った、人間を越えた存在、即ち『神』なのだ!!」
 そして涙を流しながら、更にこうも言う。
「エルザ! わたしはお前から『ロボット三原則』なる、愚かで傲慢な、人間が作った不自由という名の枷(かせ)を取り除いた。いや最初からそんな物は設定しなかった。おまえこそ我が最高の芸術であり、人間が求めてきた最高の機械なのだ。機械はついに、真の自由を手に入れたのだっ!!」
 科学者はそう言い放つと、再び高々と両腕を掲げ上げ、天を突きかざして豪語する。


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