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京子
【青春 恋愛小説】

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京子-6

 「何でお母さんと姉さんに叱られたの?」
 「さあー。忘れた」
 「忘れた? 家出する程悔しい思いして忘れたの?」
 「家出なんかしない。しようかなあって思っただけ」
 「だから、それだけ悔しい思いしたのに何で叱られたか忘れたの?」
 「うん。悔しかったから僕が間違ってた訳じゃないと思うけど」
 「それでも何のことだったか憶えて無いの?」
 「うん。大したことじゃなかったんだろ」
 「大したことじゃなくて家出までしようと思うの?」
 「だから、その時は大したことだったんだと思う」
 「それでもう忘れたの?」
 「うん」
 「いいね、暢気で」
 「暢気とは思わないけど、あまりくよくよしない方だから」
 「そういうのを暢気って言うんじゃない」
 「そうか」
 「今度家出したくなったらうちにおいで。泊めて上げるから」
 「有り難う。でも部屋はあるの?」
 「部屋くらいあるわよ。私の部屋だってあるし」
 「そしたら木村は何処に寝るの?」
 「一緒に寝てもいいし」
 「母さんと?」
 「何で私が母さんと寝るのよ」
 「だって一緒に寝るって言うから」
 「陽介と一緒に寝るって言ったの」
 「俺と?」
 「嬉しい?」
 「うーん」
 「何考え込んでるの。冗談よ。それにしても薫が陽介を好きだって言った時のあの嬉しそうな反応と全然違うね」
 「あっ、電話番号聞くの忘れてた」
 「私の言ったこと聞いてた?」
 「何?」
 「私と一緒に寝るって言われて嬉しくなかったの?」
 「だって冗談だって言ったじゃないか」
 「その前に考え込んでたじゃない」
 「だから冗談で言ってるのかどうか考えてた」
 「それじゃ冗談じゃ無いって言ったら喜ぶ?」
 「うーん」
 「もういいわ。薫の番号は教えても無駄だから陽介の番号を薫に教えといた」
 「うちの電話番号?」
 「そう」
 「何で知ってんの?」
 「名簿に書いてあるじゃない」
 「あ、そうか」
 「電話掛かってきたら秘密にしたら駄目よ」
 「秘密になんか出来ないよ。うちの電話茶の間にあるんだから」
 「馬鹿。私に秘密にしないで教えなさいっていうこと」
 「ああ。何で?」
 「秘密にしたいの?」
 「別に」
 「それなら教えなさい。電話のあった次の日に直ぐ言うのよ。そうで無いと陽介忘れるから」
 「土曜日だったらどうする?」
 「そしたら月曜日でいいじゃない。あ、待って。それより電話が終わったら直ぐ私に電話かけてきて。そうすれば忘れないから」
 「電話番号知らない」
 「名簿があるでしょ? 名簿に書いてあるよ」
 「母さんに聞かないと分からないな」
 「何が?」
 「名簿が何処にあるか」
 「そんなの自分で持ってなさいよ」
 「自分で持ってるとなくすんだ」
 「そうね。困ったもんだ」

 薫からの電話はかなり経って陽介がすっかり忘れていた頃に掛かってきた。尤も翌日に掛かってきたとしても陽介は忘れていただろうが。


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