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京子
【青春 恋愛小説】

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京子-22

 日曜日に陽介と京子は中野駅で待ち合わせて一緒に新宿に行った。日曜の新宿は凄い人並みである。京子は陽介の手を握って歩く。陽介が恥ずかしがってふりほどこうとしても京子は離さない。

 「陽介がふらふらして迷子になるといけないから手を握ってるの」
 「何だか恋人同士みたいで恥ずかしい」
 「恥ずかしいこと無いでしょ。みんな男と女は手を組んだりして歩いているでしょう」
 「俺こういうのやったこと無いから」
 「これから慣れなさい。私達だって恋人同士みたいなもんなんだから」
 「おれと木村って恋人同士なの?」
 「何か文句あるの?」
 「姉さんに知れたら叱られそう」
 「別に叱られないと思うわ」
 「そうかな」
 「巨乳事典なんか見てるより本物の女の子と腕組んで歩く方がよっぽど健全だよ」
 「巨乳事典ってそんなに不健全かな」
 「そうよ。おっぱいしか写っていないんだから、要するにそのモデルの人間性なんかどうでもいいと思って見てる訳でしょう? それは女性を物として扱っているのと同じことよ」
 「なるほど。おっぱいだけじゃ駄目なのか」
 「胸に関心が強いとか顔に関心があるとかってことはあるでしょうけど、それでも胸だけとか顔だけを見ていいだ悪いだって言うのは駄目。そういう見方は女性を馬鹿にしているの」
 「ふーん。そうかなあ」
 「そうよ。胸だけ写っている写真見てこの女の人はどういう人なんだろうなんて思わないでしょう?」
 「うーん。そんなことは思わないな」
 「ね。つまり女性として見ているのでは無いのよ。部分だけに関心を持つというのは」
 「そうか」
 「そう。陽介だってお母さんや姉さん、妹のことは好きでしょう? でも例えばお母さんの何処が好きなんだと聞かれても答えられないでしょう? 人を好きだ嫌いだというのはそういう風に全体的なものなの。何処が好きで何処が嫌いだということは無いのよ」
 「そうだな」
 「分かったらもう巨乳事典とか胸の写真とか見て喜ぶのはやめなさい。そんなに大きい胸がいいんなら胸の大きい人と付き合えばいいの」
 「胸の大きい人って村井さんのこと?」
 「馬鹿。私のことよ」
 「そうか。良く考えたら木村って大きいおっぱいしてるんだな。全然気が付かなかったよ」
 「一体何処見てたの」
 「だってこの前うちに来た時姉さんが『私も母さんも胸が大きい』って言ってたけど、そんなこと言われるまで全然気が付かなかったもんな」
 「そうか。それでいいのよ。その人の全体を見て好きになれば部分なんか特に気が付きもしないもんなのよ」
 「うん。そうなんだね」
 「顔が好きで結婚したのに交通事故で顔に傷が残ったからと言って離婚する人なんかいないでしょ? 胸が大きいから好きになって結婚したと言っても乳ガンで胸を切り取ったら嫌いになったなんて話は聞かないでしょう? 人を好きになるというのはそういうことなの」
 「うん。あのさ、この間テレビで植物人間になった話をやってたんだ。麻酔のミスで死ななかったけど植物人間になっちゃって、それで奥さんは答えもしないし何の反応も示さないそのご主人に向かって話しかけてるんだよ。『動かなくてもこうして話を聞いてくれてると思えば、それだけでもいいんです。安楽死なんてとんでもありません』なんて言ってるんだ」
 「うーん。それはそうかも知れないわね。私だってお父さんやお母さんがそうなったら同じように思うに決まってる」
 「うん。人を好きになるって凄いことなんだなって思った」
 「あのね。安楽死なんて殺人と一緒なのよ。私のお婆ちゃんて90過ぎまで長生きして私の子供の頃良く話をしたんだけど、お婆ちゃんはご主人を安楽死させているの。昔はもう助からないというと病院でそういうことやってくれたのね。今みたいにうるさいこと言う時代じゃなかったから。それでお婆ちゃんはいつもその話ばっかりなの。もう何十年も昔の話なのに『ああするしかなかったんだ、あれで良かったんだ』って言いながら目やにの溜まった目に涙浮かべてるの。でもそういうこと言うっていうのは後悔している証拠でしょ? 私お婆ちゃんは大好きだったけどその話を聞くのは厭だった、お婆ちゃんが可哀想で」
 「うーん」


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