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悦子
【SM 官能小説】

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悦子-3

 雑誌は3ヶ月に1回発行することになっていて、山辺から又雑誌が送られてきた。送られてきても栄一は雑誌を殆ど読まないのである。ただ捨てるわけには行かないので押入に順次積んでいくことになる。しかし毎回雑誌と共に寄稿依頼の手紙が入っていて、それは大勢に出すから定型文が印刷されている。そしてそれにちょこちょこと山辺が何かしら書き加えてあるので、その便箋だけは取りだして読む。今回の手紙には、『悦子女史から手紙が行ったと思うけどどうしました? ちょっと変わった女性だけどなかなかの美形だぜ』と書き加えてあった。ホントかいなと呟きながら又いくつか寄稿しないといけないなと思った。大学生時代に短歌は沢山作ったので、雑誌にはその中から適当に選んで送っているだけで、今は全く短歌など作っていない。

 『 今し方遭った娼婦の肩を抱き 海を見つめて故国を想う

   襟刳りの深いドレスでお辞儀する 君の乳房が私を睨む

   大輪のハイビスカスを髪に挿し 微笑む君は黒いモナリザ

   踊り子の汗にまみれたその肌に 鼻押しつけて匂い貪る

   起抜けの君は裸で鏡を見 ちょっと踊ってトイレに消える』

 今回はこの5首を送ることにして、古いノートに書き付けてあるこれら5首の頭にチェックを付けた。そうしておかないと、後で忘れてダブッて寄稿したりしてしまうからである。これらを作った当時も実は短歌などにさほど関心は無かった。しかし当時は国家試験を受けて上級の公務員になろうなどと考えていたので、勉強の合間に息抜きするようなつもりで作っていたのである。短歌として物になっているのかどうかは当時も今も分からない。分からないから求めに応じてずうずうしく雑誌に寄稿したり出来る。それで金を貰っている訳ではなくて逆に払っているのだから、まあ許されるだろうと独り決めしている。
 便箋に5首を無造作に並べて書き、1万円札を1枚はさんだだけで後は何も書かずに山辺宛てに送った。山辺のようにちょこっと何か書き足すこともあるのだが、山本悦子という女性について何か書こうと思って考えた末にやめた。何を言わんとするのか自分でも分からなかったからだ。なかなかの美形だぜと言われても遠く離れていては顔を拝む訳にも行かないし、そもそも文学に趣味のある女だなんて小難しいことばかり言いそうで会って話してみたいとも思わない。女は少々抜けているくらいの方が好きなのである。はちきれそうな体にスカスカの脳味噌という組み合わせが理想ではないかと思ったりする。
 短歌を送って2ヶ月以上経つと山辺から又雑誌が送られてきた。いつものペースなので封も切らずに押入に入れた。いずれ暇なときに取りだして封を切り、山辺の添え書きを読むという習慣なのである。

 栄一は上級職公務員にはなれなかったが、どうにか都庁の職員になれた。そして都庁からさる区役所に派遣されて戸籍課の課長をしている。戸籍事務などというものは全部決まっていることを決まったとおりにやればいいので頭を悩ますことは何もない。区役所に派遣されて今の職に就いた時はそう思った。ところが、結構頭を悩ますようなことはあるのである。近頃は外人が増えて、外人と結婚している日本人が増えた。このようなケースでは難しい問題が沢山ある。先例集を調べても載っていないような事例が起こることもあり、そういう場合は自分でどうすべきか考えて、それを自治省に宛てて「・・・と考えるが、それで良いか」という具合にお伺いを立てることになっている。すると通達という形でそれで良いとか悪いとかの回答が返ってくるのである。
 しかしそんなことが偶にあるだけで、基本的には役所の仕事は楽で退屈である。まあ結構忙しい時もあるにはあるのだが、旅行代理店に就職した友人と会い『シーズンになると忙しくてトイレに行く暇も無いんだ。膀胱炎になりそうな気がするよ』という話を聞いたことがあるので、民間に行けばこの程度で忙しいなどと言ってはいけないのだろうなと思っている。


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