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灰色の愛
【家族 その他小説】

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灰色の愛-1

窓から見える、等間隔に並んだ電信柱。

灰色の曇り空が時折見せる青の表情に、藍琉は目を細めてため息を吐いた。

━もう、梅雨も終わりかぁ…。

雨の日独特のあの匂いが藍琉は好きだ。
何にも例え難い雨の匂いは、自分に心の安らぎを与えてくれる。
藍琉はそう感じていた。

「藍琉、まだ帰ってなかったのか?」
耳障りの良い綺麗なテノールの声。
「…いちゃ悪いの?」
「別にそんなことないけど…。もう6時だし、暗くなってくる頃だから。」
「今は日没が遅くなってるから全然余裕。」
「…あ、そ。」
「ハイリこそ、早く帰った方がいいんじゃないの?暗いと痴漢に襲われちゃうかもしれないしね。」
「なんで俺が襲われんだよ。普通危ないのは藍琉の方だろ。それと、俺をハイリって呼ぶな!藍琉が俺をハイリハイリって呼ぶから、みんな俺がハイリだと思ってるんだからな!」
綺麗なテノールの声の主は、藍琉と同じ顔を歪めて必死に抗議した。


片桐藍琉(アイル)と片桐灰璃(カイリ)は一卵性双生児。
姉・藍琉は、人見知りが激しい上にクールで口数も少なく、人付き合いもあまりない。頭脳や運動神経も良い方なのだが、やる気がないのでその良さを知るものは極めて少ない。
弟・灰璃は、社交的で人当たりが良く、周りからの信頼が厚い。成績優秀、スポーツ万能と何でもこなせ、しかも容姿端麗と来たものだから、男女問わず絶大な人気を誇っている。次期生徒会長との呼び声も高い。


藍琉と灰璃はよく周りから比べられる。
双子なのに性格は全然似てないのね、とか。
弟の方がよく出来ているのね、とか。


藍琉にとって灰璃はコンプレックス━━…

…になるはずなのだが、当の藍琉本人は別にどうでも良いようで、当人同士これといったイザコザもなく平穏に暮らしてきた。


「藍琉ー。帰んないのか?もう、俺帰っちゃうぞ。」
「っそぉ〜。ばい。」
帰り支度をすまし、教室の入り口付近で振り返り自分を見つめる灰璃に、藍琉はひらひら手を振った。
「…誰か待ってんの?」
「別に?」
「じゃあ、帰ろーよ。」
「…ハイリはオネイチャンと一緒に帰りたいのかな?」
学校では笑顔など滅多に見せない藍琉が、灰璃に向けてにこっと笑った。
「藍琉は、俺のこと嫌いなのか?」
「なんで?ユウトウセイのジマンの弟だけど?」
自分と同じ顔の、出来の良い自慢の弟。

時々藍琉は思う。
自分の協調性やら社交性やらは、全て灰璃が持っているんじゃないか、と。
それでもいいのだ。
むしろ、自分の良い部分を全て灰璃が持っていたとしても全然構わないのだ。


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