投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

魚精
【その他 官能小説】

魚精の最初へ 魚精 6 魚精 8 魚精の最後へ

魚精-7

(7)

 E川に捜索隊が入ったのは3日後のことである。温泉旅館の主から釣りに来た男性の車が止まったままになっていると通報があったのだった。
「話をした人の車でまちがいない。三日も同じところにあるのはおかしい」
タイヤの跡もそのまま、移動していないし、野宿をした形跡もない。
「東京から来たと言ってたが……」

 ナンバー照会をして所有者を特定し、住所に連絡をしたが電話は通じない。さらに勤務先を割り出して聞いてみると、親戚の葬儀のために有休をとっていると分かった。だが、この日から出勤のはずが出社していない。携帯にかけても圏外になっているという。

 ここに来たのは本人なのか。車が盗難にあって第三者が乗ってきたのか。しかし、盗難車で釣りに来るだろうか。判然としないながら事件性もあると見込まれて、取り敢えず捜索してみることにしたのだった。

「淵の話をしていた」
ずいぶん昔に湧き水がなくなって涸れた淵のことを言っていた。
「涸れた淵に釣り人が行くはずはないだろう」
本流を探したほうがいいという意見が大半だったが、ともかくそこを確認して潰してみようということになった。
「どの辺りか教えてくれるかね」
旅館の主が案内してくれることになった。
「昔は水があったから、それをどっかから聞いてきたのかもしれない」

 遺体が発見されたのはそれから2時間も経っていない。
「どういうことだ?」
捜査員たちの顔には、にわかに緊張が漲った。
 深い底に横たわった遺体は全裸である。しかも奇怪なことに男の陰部がなくなっていた。
「この人です。話した人です」
主は1度遺体を見ただけで顔を背けて木陰に隠れてしまった。

「ここが淵だったところか……」
形状はたしかに淵だったと思われた。干からびて水はまったくない。
なぜ、全裸で……しかも陰部の状況は猟奇的である。
「刃物で切ったものではないな」
「噛み切られたような切断面ですね」
「動物か?」
「この辺には狸くらいしかいないぞ」
「それに、なんでここだけないんだ?他には外傷はない」
周囲に衣服もない。範囲を広げて衣類の捜索となった。

 事故にしては状況が不可解すぎる。
「この辺に人家はありますか?」
「いえ……」
(そうだろうな……)
「ちょっと寝泊まりできるような、小屋とかもないですか?」
「ありませんね……」
捜査員は衣服の所在を考えていた。裸になった理由がわからない。もし殺人だとしたら衣服の発見場所に手掛かりがあるかもしれないと思ったのである。

「こんな所に家なんてありませんよ。せいぜい祠くらいですよ」
「ほこら?」
「この淵の上に祠があるんです」
「どんな?」
「ちっちゃいおもちゃみたいな祠です」
「それじゃ……」
意味はないと思いながら、
「どこにあるって?」
淵の岩の上だが、険しいので回り道をしないといけない。
「その祠は何をまつってるの?」
「何でも、魚の霊をまつってるらしいんですが、誰が作ったのかは知りません」
主は電気漁をして死亡した事故の話をした。
「ああ、憶えてる。あれ、ここだったのか」
あの後、いつの間にか祠が設置してあったという。
「ふーん。死んだ人間の供養じゃなくて、魚の供養か」

 捜査員は迷ったが、何かの因縁かもしれない。人間がこれだけ騒がせていることも考えてお参りすることにした。
「釣りに来た亡くなったんだから……」
 
 辿り着いた祠の前で2人の捜査員と主は言葉を失って立ち尽くした。そこには丁寧に畳まれた衣服と、萎びた陰茎が供えられてあったのである。



  


魚精の最初へ 魚精 6 魚精 8 魚精の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前