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女の扉 上
【同性愛♀ 官能小説】

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二つのロケット-1

 私たちの学園のプールは三階建てになっている。
 地下は更衣室、物置、給排水設備など。一階は屋内プールで、屋上は普通に露天のプールだ。
 更衣室は二つの部屋に分かれている。用具棚や大き目のロッカー、ミーティング用のホワイトボードなどの設置された水泳部専用の部屋と、一般生徒用だ。それぞれに出入り口があるが、両者を行き来できるドアもある。それは通常は施錠されていて開かない。
 一階の屋内プールはもっぱら水泳部が使う。気候に影響を受けずに安定した環境で練習をするためと、競技用規格に対応した深さになっているため、十分に訓練を積んだ者でないと危険だからだ。
 屋上プールは一般生徒が体育の授業で使うためのもので、どこの学校にでもある普通のものだ。
 「言い訳はしないわ。」
 「何の言い訳ですか。」
 スーパームーンが水面に小さな光の波を揺らしている。
 「あなたが見た通り、私と志歩先輩は深い関係をもっている。」
 「だから何なんですか。私にはもう関係ありませんよ、涼水原先輩。」
 月の大きさはいつも同じではない。それ自身が変化するわけではないのだが、公転軌道が楕円形である為に、近づけば大きく離れれば小さく見えるのだ。最も大きく見える時期の満月は、特別にスーパームーンと呼ばれる。
 「関係あるわ。私と志歩先輩、そして彩乃、あなたとの関わりあいについて話しておきたいの。」
 「聞きたくありません。それに、話をするのになんでこのかっこうなんですか?」
 屋上のプールサイドで競泳用水着を身に着けた私と藤谷彩乃は、数メートルの距離をおいて向かい合って立っている。
 「私にあんなことを言ってあんなことをしたけど、他にも居ました、二股でした、それだけの話じゃ…ないですか。」
 彩乃は唇を噛みしめ、大きな瞳に涙を浮かべている。それは今すぐにでも溢れ、零れ落ちそうだ。
 「その通りよ。」
 「…。」
 彩乃は無言で走り去ろうとした。
 「待って。」
 数歩走ったところで彼女は立ち止まった。その背中に私は語りかけた。
 「待って、彩乃。あなただからこそ話したい、いいえ、話さなければならないことがあるの。」
 背中が揺れている。足元に、小さく光るものが落ちたのが見えた。
 「もう…構わないで下さいよ!私がどれだけ…どれだけ先輩のことを…。」
 私は彼女に歩み寄り、肩に手を置いた。
 「これを見て。」
 「何ですか。」
 私が手に持っているのは、いつも首から下げているシルバーのネックレス。
 「いつも着けてるやつですよね。志歩先輩も同じものを。そうか、その時点で気付くべきだったんだ。私、バカみたい…。」
 彩乃の目の前にネックレスを近づけた。
 「筒型のロケットがぶら下がってるでしょ。これに何が入ってると思う?」
 彼女は赤く腫れた目でそれを見つめた。
 「志歩先輩との思い出の何か、ですよね。」
 「半分正解。ロケットは二つある。」
 「み、三股!?」
 「ちがーう!」
 ふぅ、と一つ息をついてから話し始めた。
 「更衣室であなたの下の毛の手入れをしてあげたの、覚えてる?水着からはみだし…」
 「お、覚えてます…けど。え!?まさか。」
 私は彩乃の目を見つめたまま頷いた。
 「筒の一つには志歩先輩の、そしてもう一つにはあなたの。」
 「二股…。」
 彩乃はむくれた顔で私を睨んでいる。
 「聞きなさいってば。」
 私は彼女の顔を両手でギュっと挟んだ。まだあどけなさの残る可愛らしい顔がへちゃげ、変顔になってしまった。
 「このネックレスはね、水泳部の歴代部長の間で代々受け継がれてきたものなの。一世紀以上にもわたるこの学園の歴史の、いつ始まったものなのかは不明だけど。」
 「代々二股…。」
 「まあ、そう思うわよね。」
 「他にどう思うんですか!」

 『他にどう思えというんですか!志歩先輩。』
 信じられない。二股をする伝統なんて。

 「信じなくていい。事実として聞いて欲しい。」
 彩乃は黙って話の続きを待っている。
 「私はね、彩乃。あなたが大好き。愛してる。後輩として、女の子として、そして…愛しい人として。」
 「先輩…。じゃあ、どうして。」
 「私があなたを愛しているのと同様に、志歩先輩は私を愛してくれているの。」
 「だからって…。」
 「彩乃に将来、愛しい人が出来たらどうする?」
 「そんなの!そんな人出来ません。私はずっと沙楽先輩を!」
 「愛してくれるのよね?」
 彩乃は力強く頷いた。
 「私もそう。志歩先輩をずっと愛し続ける。でも、私はあなたに出会った。」
 ネックレスを掲げた。
 「これはね、証なの。愛するという誓い、そして愛し抜く覚悟の証。あなたの物をこうしてずっと身に着けていることの意味を、分かってほしい。」
 彩乃は俯き加減にじっと考え込んでいる。
 「…つまり、私に対する気持ちも志歩先輩に対する気持ちも、どちらも真実。形として見れば二股だけれど、浮気なんかじゃない、ということですか。」
 「そう。だから。」
 私はプールサイドのベンチに置いてあったポーチを手に取った。
 「これを受け取ってほしいの。他の誰でもない、あなたによ、彩乃。」
 私が身に着けているものと全く同じネックレスを差し出した。
 「沙楽先輩…。」
 それを受取ろうと伸ばした彩乃の手が宙に止まった。


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