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『FOR BELOVED DEAR』
【純愛 恋愛小説】

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『FOR BELOVED DEAR』-2

猛反対する父を説得するのは大変だった。そして気付けば高校2年の秋。
「笠見、曲調変わったな。」
そう先生が言った。
「そうですか?」
「うん、前みたいに悲しいばっかりじゃなくて、あったかい歌になった。声も明るくなったしな。」
それはきっと夢を追い出したから。少しだけ周りにも関心を持ち出したから。
「先生のおかげかな。」
「よせやい、はずかしい。」
そういってニカッと笑う。その笑顔が私の頬を熱くした。こんな気持ちはじめてだった。


先生への想いを歌にしよう。彼への感謝と、胸の奥にくすぶる私の気持ちを。私はそう考えた。そして曲が半分できたころだった。
「笹塚先生、ご結婚なさるそうで。それに専任の勤務先も決まったそうじゃないですか。おめでとうございます。」
「ありがとうございます、教頭先生。」
「でも少し残念ですねぇ。笹塚先生は生徒からの評価も高かったのに。」
「いえ、私はまだまだ…。」
結婚…するんだ。この学校も、やめるのね。その日、私は久しぶりに泣いた。


「今日で、笠見の歌聴けるのも最後だな。」
彼は感傷に浸ってそういう。
「そうですね。」
「あ、でもお前が歌手デビューしたらまっ先に買うからな。」
「なれればですけどね。」
私はふっと笑った。
「なれるさ、笠見なら。絶対に。」
自信たっぷりにそう語る彼。こうして話をするのも…最後。
「笠見?どうして泣いてるんだ?」
「え?」
頬に触れると、濡れていた。私は…泣いている。
「僕がいなくなるのがそんなに寂しいのか?仕方ないな。」
半分はそう。でも半分は違う。もう半分は私の想いが届かないこと。
「ち、違います。目にゴミが入っただけ…。」
「素直じゃないなぁ。」
そう、私は素直じゃない。最後まで、素直じゃなかった。

高校2年の終わり、笹塚大輔は去っていった。私の心にぽっかり穴を開けたまま。



あれから6年。私は歌手になった。今日は2枚目のシングルが発売した日。デビューした時に来た手紙を開き、私は電話の受話器を取った。

プルルル、プルルル、ガチャ。

『ハイ、笹塚でございます。』
受け答えたのは女性の声。きっとこれは奥さんの声。
「もしもし、以前笹塚大輔先生にお世話になった、笠見と申します。先生はご在宅でしょうか?」
『あ、はい。少々お待ちください。』
しばらく保留の音が流れる。そして…
『もしもし?』
6年ぶりに聞く声。
「先生、お久しぶりです。」
『久しぶりだなー、笠見!いや、今は“RIO”さんって呼んだほうがいいかな?』
“RIO”それが私の歌手としての名前。
「今は“笠見莉緒”ですから。」
『そうか。そうだな。』
「それより先生、今日出た新曲、聴いてもらえました?」
新曲は先生に捧げる歌だから。
『もちろん!…正直びっくりしたよ。』
「6年前に言いそびれたことです。」
6年前、作りかけていたあの曲だから。
『…ありがとう。でもごめんな、笠見。』
「いえ。私の自己満足ですから、気にしないでください。用件はそれだけですから。それじゃ。」
『ああ。体には気を付けて、がんばれ。それとなんか困ったら電話しておいで。それじゃあな。』
先生はどこまでも優しい。私は新曲のCDをコンポに入れて再生した。6年前とは少し違う歌詞が流れ出す。

夢を追うことを教えてくれたことへの感謝。貴方と歌った日々の楽しさ。貴方に感じた愛しいという想い。今は正直に言える私の気持ち。そしてもう私の心の中で整理がついたこと。

全てを詩にこめて作った私の、先生に捧げる歌。曲名は、そう。


「『FOR BELOVED DEAR』」


〜終〜


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