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お世話いたします……
【その他 官能小説】

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お世話いたします……-6

(6)

 スーツ姿は自分でも身が引き締まる思いがして自然と背筋が伸びる。鏡で見るとどこから見てもキャリアウーマンである。上等の服だからなおさらだ。
「どちらへお勤め?」
近所の奥さんに訊かれたことがある。無理もない。それまでジーパンで自転車に乗った姿しか見ていないのだから目を引くのも当然である。着る服によってこんなにも気持ちが変わるものか。
(気分がいい……)
心が爽やかになるのが嬉しかった。

 しかし、また疑問。出勤していまだに仕事がない。2か月が経っていた。初めに聞いていた会社のお客様も1人も来ない。それなのにスーツはきちんと着なければならない。一度専務に訊いたことがある。『お風呂係』なら、もっと動きやすい服装のほうがいいのではないか。実は初めての入浴で慌てたので、次の時に短パンとジャージを用意していったのである。着替えた姿を見て社長ははっきりと眉間に皺を寄せた。
「なんだか、介護をされてるようで嫌だな」
珍しく不快な顔を見せたのでそれからはスリップで通していた。
「不自由かもしれないけど、スーツは着てください。わが社の社員、秘書ですから」
専務は静かな口調ながらきっぱりと言った。
「面倒なことをお願いしてるのはわかっています。秘書といいながらいやな役目を押し付けて、本当に申し訳ないと思っています」
「いえ、そんなこと……」
いやな役目どころか、むしろ、
(ときめいている)
なんて、とても顔にも出せない。
「こちらでのことはすべて仕事と思っています」
優等生の返事をしたものである。

 専務からその『仕事』を依頼された時、私は複雑な気持ちになってすぐには返事が出来なかった。
「今度の土日、うちに泊まってくれないかしら?」
土曜日曜は休日である。休日出勤ということだが、泊まる、となると通常あることではない。
 専務が泊りがけで高校のクラス会に出かけるのだという。
「実は、だいぶ前から決まっていてね」
なかなか言い出せずにいて、直前になってしまったのだった。
「お願いできないかしら。何かご予定があったら諦めるけど……」
申し訳なさそうに私の表情を窺う奥様。
「特に予定はありませんが……」
ためらうような口調になったのは揺れ始めた心のせいだった。
 土日は藤堂さんもいない。会社も休み。つまり、社長と2人きりなのだ。……
(どうなるんだろう……)
その想いは、何かしらの危機感を覚えたからではない。私自身、そんな状況の中で気持ちの乱れを起こしてしまいそうな不安を感じたからだった。
(社長と2人……夜も……)

 食事の支度はしなくていい。馴染みの和洋食店に手配しておく。掃除も洗濯もしなくてよい。要するに、
(社長のお世話……)
それだけを頼みたいということなのである。
「せっかくのお休みをつぶしてしまうんだから……」
他のことは何もしないでほしいという。
「家にいてもすることはありませんし、仕事をしていたほうが張り合いがあります」
「そう言ってもらえると気が楽になるわ。ありがとう」
土曜は午後から出勤してもらえればいい。
 ほっとした専務の顔を見ながら私は少しずつ俯いていた。午後からの出勤、そして休日。社長だけしかいない。私がすることは決まっている。……
(これまでのお世話より興奮してしまいそう……)
不純な自分の心に疚しさを覚えていたのである。
 
 

 


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