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変容
【SM 官能小説】

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変容-1

プロローグ……


…彼がどんな罪に苛まれ、自分を苦しめていたのか、その鞭がすべてを知っているような気が
します。彼は、毎夜のようにその鞭で自らのからだを打ち続けていました。私はその姿を今で
も憶えています。でも、その罪がどんなものか、彼は私に告白してくれることはありませんで
した。そう言いながら、老修道士は、十字架の刻まれた墓碑へ深いため息をついた…
(谷 舞子『続・聖夜』より)



クリスマス・イヴの夜、私は、以前、入院していたサナトリウムの近くにある教会の墓地を訪
れた。ここには母、麗子が眠っている。十年ほど前、三十六歳の私は精神を患い、湖畔にある
このサナトリウムで療養をしていたが、私は、「聖夜」そして続編の「続・聖夜」という投稿
小説で、その頃のことや母、麗子に纏わる話を書いたことがある。

訪れたサナトリウムはすでに閉鎖され、観光客向けのカフェに改装してあったが、亡き母の墓
地がある教会では、青い目をした見知らぬ中年の神父が私を迎えてくれた。クリスマスという
こともあって教会は、あの頃と変わらない、ささやかなイルミネーションで飾られ、その素朴
な光は、私を優しく包んでくれた。


墓地で祈りをささげ、神父と少ない言葉を交わしたあと、私はこの湖畔の公園の中にある真新
しい美術館にふらり寄った。ホテルに戻るまで、まだ時間があった私は湖畔のまわりを懐かし
く散策したあと、神父がおしえてくれた、この美術館に足を運んだのだった。

美術館はこのあたりの観光名所にもなっているらしい。著名な建築家が設計したということも
あって、洒落た現代風のデザインがほどこされている。コンクリートとガラスでてきた建物は、
生い茂った樹木に囲まれ、森閑とした静寂と光に包まれていた。エントランスロビーには、煌
びやかなクリスマスツリーが置かれていたが、すでに閉館の時間がせまっていたこともあり、
美術館のなかに人は疎らだった。


常設展示室から別の展示室で開かれていた無名作家展と題する会場に何気なしに足を運んだと
きだった。連なる絵画の中ほどの壁に掛けられていた作品が、突然、私の瞳の中に飛び込んで
くる。私は足がすくんだようにその絵の前で立ち止まる。膝が震え、微かな眩暈に襲われる。


あの絵だった……なぜ、あのときの絵がここにあるのか……。それは、間違いなく《あの建物》
にあった絵だった。


題名は「変容」…そして、作者の名前は……。
 

私は何かにとりつかれたように茫然とその絵の前に佇んでいた。じわじわと身体から血の気が
失われていき、ぐらぐらと脳裏の中が渦を巻くように揺らいだ。

そのとき私の傍をとおりかかった若い学芸員が蒼ざめた私に気を使ったのか、声をかけてきた。


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