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聖夜の秘めごと
【同性愛♀ 官能小説】

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聖夜の秘めごと-5

 ああ、わたしも少し酔ったみたい。
 晶がほんのりと上気した頬に手の甲を当てた。
「沙耶の話はどこまで知ってる?」
「どこまでって……恋愛の話とかはよく聞かされたけど。デートがつまらないとか、そんな話」
 それも学生時代までのことで、ここ数年は個人的な話などひとつも聞いたことがない。
「お兄さんたちの話は? 沙耶より四つ上の、ものすごく出来のいい双子の兄弟」
「沙耶ちゃん、お兄さんがいるの? わたし、ずっと一人っ子だと思ってた」
「いるわよ。地元の人はみんな知ってる。でも、ちょうど詩織がいた頃は留学してたのかも。辞書くらいの分量ならページをめくっただけで簡単に暗記できるし、理系の複雑な問題でも一瞬で理解して誰も考えつかないような方法で解いて見せたり、とにかく普通じゃなかった」
「すごい、天才なのね」
「まさに天才よ。沙耶の父親は製薬会社の社長なんだけど、ご両親も自慢に思ってたのね。兄弟の才能をさらに伸ばしてやるために欲しがるものはなんでも与えたの」
 彼らの勉強に必要な参考書、優秀な家庭教師を雇うのは序の口で、海外留学がしたいといえば好きなだけ行かせ、実験室が欲しいといえば自宅の敷地内に頑丈な別棟を建て、合法的に手に入る薬品はすべてそろえてやった。
 その成果なのか、兄弟は互いに競い合いながら高校生の頃にはいくつか実際の治療にも有効な薬を完成させ、さらに両親を喜ばせた。
 誰もが称賛する兄弟。
 彼らは沙耶によく似た愛らしい容姿を持ち、人前ではひかえめで穏やかな態度をとり、決して自分たちの能力をひけらかすような真似はしなかった。
 ただし。
 輝かしい光の裏側には、必ず濃厚な影の部分が存在する。
 彼らの抱えていた暗闇は、すべて妹の沙耶に向けられていた。
 最初は、他愛ない悪戯のようなものから始まった。
 兄弟が沙耶の髪を引っ張り、彼女が泣くのを見て面白がる。
 あるいは、駆け寄ってきた沙耶の足をわざと引っ掛けて転ばせ、痛がる様子が面白いといって笑う。
 そのたびに沙耶は『おにいちゃんたちが意地悪をする』と両親に泣いて訴えたが、どうせふざけて兄弟の勉強の邪魔でもしたのだろう、と逆にいつも沙耶の方が叱られた。
 悪戯は年々過激になり、馬鹿なおまえには必要ないと勉強道具を燃やされたり、両親が仕事で帰りが遅い日には理由もなく叩かれたり蹴られたりした。
 兄弟が中学を卒業するころになると、彼らが遊び半分に作った得体のしれない薬を飲まされ、洋服を脱がされて痣だらけの体をまさぐられ、ペットのように首輪をされて全裸のまま朝まで実験室の隅に放置されることも増えた。
 沙耶が泣けば泣くほど、兄弟は楽しそうに笑う。
 誰かに言えばもっと痛い目に遭わせてやる、と脅された。
 両親は気付かないふりをした。
学校の先生も頼りにならない。
 沙耶が助けを求めたのは晶だった。
 晶が初めてそのことを沙耶に打ち明けられたのは、まだ詩織と出会う少し前のことだったという。
「信じられなかった。だって、お兄さんたちはすごく優しそうだったし、全部沙耶の妄想か何かじゃないかって。それに事実だったとしても、こっちもまだ子供で、どうしてあげればいいのかさっぱりわからなかった」
 だから、ひたすら沙耶の話を聞き続けた。
 何をされたのか、どれほど嫌だったか。
 毎日、毎日。
 学校では、沙耶はいつも明るく笑っていた。
 そうしていれば、少なくとも学校でだけは楽しい人気者でいられるから。
 晶はいつ壊れるかもわからない彼女を支え、見守る役目を引き受けていた。
 暗く長いトンネルに放り込まれたような日々。
 そんなときに出会った詩織は、果てしなく広い外の世界を垣間見せてくれた。
 いつか大人になれば、詩織のように自由になれるかもしれない。
 逃げ場のない秘密に押し潰されそうだった彼女たちにとって、詩織は希望の象徴だった。
「晶ちゃん……」
 晶はさほど表情を変えることもなく、壮絶な話を淡々と語る。
 沙耶は調子の外れたクリスマスソングをハミングしながら、いつのまにか赤いドレスを脱いで下着姿になっていた。
 両手を腰に当て、とろんとした目つきで尻を振る。
 女性らしくくびれたウエストを詩織たちに見せつけるように。
 彼女が華奢な肢体をくねらせるたび、意外なほど豊満な胸がドレスと同じ赤いブラジャーに包まれながらたぷんたぷんと揺れている。
 せつなくなるほど真っ白な肌には、ところどころに古い傷跡が残っていた。
 とてもまともに見ていられない。
 息苦しさを感じる緊張感が部屋に満ちていく。
 口の中に異常な渇きをおぼえ、詩織はグラスに残っていたワインを飲み干した。
 晶は驚いた様子もなく、冷めた瞳で半裸の沙耶を眺めている。
「高校を卒業する少し前だったかな、真夜中に沙耶が電話してきたの。いますぐ、どうしても会いたいって」


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