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聖夜の秘めごと
【同性愛♀ 官能小説】

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聖夜の秘めごと-3

「詩織ちゃん、暖炉ばっかり見てつまんない。ねえ、ツリー見てよぉ。せっかくキラキラに飾り付けしたんだからぁ!」
 酔っているのか頬をリンゴのように赤くした沙耶が、詩織の腕にしがみつきながら後ろを指さしていた。
 2階まで吹き抜けになったリビングルームの中央に置かれた、巨大なクリスマスツリー。
 一番上には金色の星、それぞれの枝の先にはカラフルなボールやぬいぐるみのようなものが結び付けられ、点滅する電球が赤や青に色を変えながら煌いている。
 壁際には派手な包装紙とリボンにくるまれた大小さまざまなサイズの箱が、ショーウインドウのディスプレイのように積み重ねられていた。
 綺麗でしょ、すごいでしょ、と自慢げに言う沙耶を見ながら、晶がおかしそうに笑った。
「沙耶は邪魔しただけじゃない。ツリーも部屋の飾り付けも、全部業者がやってくれたんだから綺麗で当たり前でしょ」
「そうだっけ? まあ、どっちでもいいじゃん。とにかくパーティーなんだから、もっと楽しまなくちゃ」
 沙耶は詩織の腕をつかんだままフラフラと立ち上がり、クリスマスソングを歌いながら適当なステップを踏んで楽しそうに踊り始めた。
 晶はすぐ横に置かれた三人掛けのソファーの右端に腰を下ろし、あきれ顔でワイングラスを傾けつつも沙耶と一緒になって歌っている。
 つられて立ち上がってみたものの、沙耶のように踊るのはなんとなく気恥ずかしく、迷った末に詩織は晶が座っているソファーの左端に座った。
 遠慮がちに隅に寄ろうとする詩織に、晶がちらりと優しい視線を向けてくる。
「あの子、飲み過ぎよね。ひとりでボトル1本あけちゃうなんて。詩織の分まで飲んじゃったんじゃないの?」
「いいのよ、わたしはグラス1杯で酔っちゃうから」
「詩織って、本当にいつまでも変わらないのね。真面目で慎み深くて。そういうところ好きだけど、三人だけのときくらいハメをはずしてもいいのよ」
「あ、ごめん。なんだか、わたしだけ場違いな気がして。毎年ね、ちょっと思うの」
「思うって、何を?」
「わたしのこと、無理して誘ってくれてるんじゃないかって。晶ちゃんと沙耶ちゃんは同じ世界に住んでる気がするけど、わたしはそうじゃないから」
 彼女たちが連れてくる贅沢で素敵な空気感は大好きだけれど、自分には似合わない。
 何年たってもそんな気持ちがつきまとう。
 くだらないコンプレックス。
 詩織のつぶやきに、晶がちょっと怒ったような顔をした。
「住む世界が違うなんて馬鹿なこと思わないで。わたしたち、友達でしょ?」
「ううん、苦手だなんてそんな……ただ、なんていうか、ふたりを見ているとわたしなんてすごくつまらない人間に思えてきちゃう」
「詩織はつまらなくなんかないわよ。わたしも沙耶も形は違うけど、結局は親から離れられずに生きてるの。でも詩織は自分ひとりできちんと生活できているでしょう? それってわたしたちから見ればすっごくカッコいいんだから」
 カッコいい、と言われて複雑な気分になった。
 晶は現実を知らないからそんなことが言えるのだ、と詩織は思う。
 職場ではやりがいのない単純作業のような仕事ばかり押し付けられ、実家には要介護の父親、将来を考えると経済的にも不安で、恋人もおらず結婚できる見込みもない。
 年々状況は悪くなる一方で、ときどき何のために生きているのかわからなくなってくる。
 とてもカッコいいなんて思えない。
 詩織は小さくため息をついた。
 沙耶はもはや詩織たちのことなど目に入っていないようで、見えない観客に手を振りながら大胆に腰を揺らして踊っている。
 赤いドレスの裾が、風に舞い散るバラの花弁のようにひらひらとして綺麗だった。
「わたしは晶ちゃんたちがうらやましい。中学生のときからずっと、沙耶ちゃんや晶ちゃんみたいになりたいって思ってた」
 彼女たちはいつだって綺麗で、世の中のあらゆる悩み事とは無縁のように思える。
 そうこぼす詩織に、晶は意味ありげな視線をよこした。
「わたしたち、綺麗なんかじゃないわ。上手に隠しているだけで、誰にも見せられないくらい汚いところもあるのよ」
 悩みのない人間なんて、この世のどこにもいない。
 晶の言葉が妙に重々しく響く。
 そういえば、こうして晶とふたりで話す機会はこれまでほとんどなかった。
 いつも間に沙耶が割って入り、話題を引っ掻き回して笑いに変えていく。
 詩織は何を言えばいいのかわからなくなり、機械仕掛けの人形のように踊り続けている沙耶を見ながら話題を変えた。
「沙耶ちゃんと晶ちゃんは、小さいころからずっと友達なの? 例えば、幼稚園とか、小学校とか」
「沙耶とは幼稚園から高校までずっと一緒だったからね。友達っていうか、姉妹みたいな感覚かな。わたしがお姉さん、沙耶が妹」
「あはは、それはわかる。沙耶ちゃんは甘え上手だもんね」
「そう、甘えっ子で馬鹿っぽいでしょ? まあ、実際あまり賢くはないかもしれないけど、あの子もそれなりに抱えているものがあるのよ」
 抱えていた、かな。
 そう言い直してグラスにワインを注ぎ足す晶の目は、どこか暗く沈んでいるように見えた。


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