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「そば屋でカレーはアリですか?」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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09.収束-2

 亜弓ちゃんは二つの意味で俺を救ってくれたことになる。一つは俺の女性に対する正当な見方を改めて教えてくれたこと、もう一つはおまえへの友情を真実の姿に戻してくれたこと。俺がおまえの真の友人であり続ける方が、ネガティブな気持ちに惑わされた妖しげな肉欲なんかよりずっと尊くて大事なことだと亜弓ちゃんは俺に身を以て教えてくれた。
 俺を許してくれとは到底言えないが、亜弓ちゃんのことはどうか赦してやって欲しい。俺のせいでおまえたち夫婦の関係が壊れてしまうなんて俺には耐えられない。彼女の気持ちをわかってやって欲しい。そして彼女と俺とのあの夜の出来事は完全に忘れて去って欲しい。
 この手紙で俺がずっと抱いていた気持ちを知ってしまったおまえが、これからも俺の親友としてつき合ってくれるかどうかはわからない。だが、少なくとも俺はおまえを唯一無二の親友だと今も思っている。
 帰国するまで何年かかるかわからない。だけどおまえと会いたくても会えない期間を過ごせるのは幸せなことかも知れない。この期間でおまえへの大切な友人としての思いを確かなものにして来たるべき帰国の日に備えたい。恋心は時と共に枯れていくが、友情は永遠に育ち続けるということを俺は信じている』

 相変わらずけたたましいほどに表の街路樹で鳴いている蝉の中にツクツクボーシの声が混じり始めた頃、鶴田家に宮本智志からのエアメールが届いた。
「なんだよ、あっちの生活とか食べ物とかの話題、皆無じゃないか」
 手紙を亜弓と一緒に読み終えた嶺士が呆れた様に言って眉尻を下げた。
「とにかくあなたに伝えたかったんじゃない? このことだけは」
 嶺士はにやにやしながら言った。
「なーにが『恋心は時と共に枯れていくが、友情は永遠に育ち続ける』だ。気取りやがって。自己陶酔ってやつ?」
「なにいってるの。それこそ智志君の正直な気持ちなんじゃない。素直に受け取りなよ」
 嶺士はその白い便せんを大切そうに封筒に入れ直しながら言った。
「あいつらしいよな……」
「一生懸命、今の思いを伝えようとしてるね。どう思った? 嶺士」
「すぐに返事書きたくなった」
「なんて書くの?」
「『心配するな、ずっと俺はおまえの親友だ』って」
「嶺士だって気取ったこと言ってるじゃない」
 亜弓は笑った。
「他にどう書けってんだよ」嶺士は口を尖らせた。
「良かった」
 亜弓ははあ、とため息をついた。

「ヤツは無理してんな」
「え? どういうこと?」
「俺に気を遣ってるのか、自分のバイ属性を何とかして否定しようとしてるよな」
「嶺士に嫌われたくないからだよ、きっと」
「たぶんそんなとこだろうな。この手紙で俺を抱きたいとは思わなくなったみたいなことが書いてあるけど、そもそもそんな簡単に割り切れるモンじゃないと俺は踏んでる」
「今も智志君、嶺士のことをそういう目で見てる、ってこと?」
 嶺士は頷いた。「自分で思い込もうとしてるだけだよ。でもそれはそれでいい。ヤツが俺を性的な対象として見ていようが、俺は大丈夫。今智志が目の前にいて俺に迫ってきたら、もちろん肉体関係は拒絶するが、気持ちだけは受け止めてやれるよ。女と違って力でねじ伏せられることもないだろうしな」
 嶺士は笑った。
「男同士なら、恋する気持ちが醒めても友情は残るでしょうしね」
「時間はかかるかもしれないけどな」
 小さくため息をついて亜弓が言った。「なんかあたしのしたこと、無駄だったみたい……」
「無駄? なんでだ?」
「嶺士がそこまで理解があるって知ってたら、智志君の気持ちをあなたに伝えるだけにしといたのに……」
「そんなことはないよ」嶺士は亜弓の手を取った。
「おまえが俺や智志のことを真剣に考えてくれて、行動してくれた結果、俺、こんな偉そうなことが言えてるんだ。それに、」嶺士は亜弓に身体を向けてその目を見つめた。「おかげで今までの俺の不甲斐なさも思い知ることができたし、おまえと一緒になれて良かった、って再認識もできた。おまえのやったことは無駄じゃないよ。ほんとにありがとうな、亜弓」
「嶺士……」
 嶺士は照れくさそうに頭を掻いた。「さてと、そろそろ出掛けるか」
 「うん。あたしお腹空いた」亜弓は潤んだ目を人差し指で拭ってにっこり笑った。




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