助走-6
・・・問題です。
第1問。その有名ゲームキャラのコスチュームを、現在着用しているのは?
ピコーン。
はいミズキさん。
アタシです。
ピンポーン。
正解です。
コスチュームを着ているのは、そう、36歳シングルマザー、カレシ無しのアナタ、ミズキさんです。
第2問。そのコスチュームを本来着るはずの人物はいったい、どなたでしょうお答えくださ
ピコーン。
おっと問題の説明にかぶせてきました回答者のミズ
アタシのムスメのアカリで
ピンポーン。お返しに回答にかぶせてしまいましたが、正解です。
コスチュームを着るハズだったのは、そう、36歳シングルマザー、カレシ無しのアナタ、ミズキさんの一人娘、小学6年生の未成年者にもかかわらず、アナタと飲み比べをして爆睡中の、アカリさん13歳でーす。
ここまで連続正解、お見事です。
さて最終問題。冷静沈着なクイズ王が見事、2連覇達成の瞬間を迎えるか?
第3問。その娘さんが着るハズだったコスチュームを着ているがために、ユズルくんに、あろうことか愛娘のアカリさんと間違われてしまっている女性はいったい、どなたでしょーか、お答えください!!
おっと、ここで一旦CMでーす。
軽薄そうな司会者の笑顔が、脳内から消える。
アタシの脳内の架空のクイズ番組が中断して、新たに映し出されたのは、ゆうべの親子ゲンカの記憶。
「思い出す」機能がerror起こしてるっぽい。
………
……
…
『……ナニよこんなもん……飲んでやるわよホラ!!……』
『………』
『……』
『…』
『どーだババア……飲んでやったぞコラ』
『んだとコラ、コロモのくせにコラ……あ、アタシだってまだもっと』
『待てよババア、アラシらってまだもっと』
『あ、また言った……ババアって言った……』
『…ババアにババアって言ってナニがわるい?……き、気持ち悪い……ぅぇぇ』
『気持ち悪い!?……ババアって言ったうえに気持ち悪い!?……ヒドイ!!………ヒドイアタマ痛い』
『……だからババアにババアってオエェェェろろろろろ』
『あ、吐いたな?ババアキモいからって吐きやがったな!?……よ、よーし………アラシがほんとにキモいババアかどうか、やってやろうじゃないの』
ガサゴソ、ガサゴソ。
『オエェェェ、ヴぇッ、……ちょ、ちょっとソレあたしが注文した……勝手に着ないでよこのブオエァ』
『どーせアラシの金で注文したんだからコレ、アラシの服だよ!!……うわケツちっせぇなコレ、入るかな』
ガサゴソ、ガサゴソ。
『………』
『……』
『…』
…
……
………
そこまでの記憶映像が再生完了して(さらにソッコーで『早く忘れたい記憶』というタイトルのフォルダにその動画をぶちこんで)アタシ、ようやく我に帰った。
どうやら色々な事が重なって、母親であるハズのアタシは今、ムスメのアカリと間違われているのデシタ。
そういえば、結局ドタキャンされたとはいえホテルディナーからの外泊デートの予定だったから、ものすごく丁寧に念入りにメイクしたハズ。
ホテルに向かう途中でLINEが来て、別れ話。
そのまんま駅ナカでお酒と食べ物買い込んで、ヤケ酒&ヤケ食い突入。
てコトは、普段は面倒くさくてやらない「目ヂカラメイク」が、化粧を落とさぬまま残っているってこと。
背格好がもともと似てるのもあるんだろうケド。
「ムスメのアカリ13歳がコスプレのためにバッチリメイクまでしちゃいました」状態に見えてる、ってことなのだろう。
ってことは、このババア、案外イケるんじゃね?
いやいやいやいやむりむりむりむり。
さすがにこのマンションを含めたご近所をこの格好で練り歩くなんて、ナンの罰ゲームだよ。休日だから顔見知りやお付き合いのあるママ友もダンナも自宅に居たりするだろうし、黒チクビ透けたらどうしようだし、こんなの見られたら、さすがに、アタシもう
「おい、ちょっと見せてみろ」
勝手にパニックのアタシとは真逆に、落ち着き払ったユズルくんはそう言って、アタシの足元にしゃがみこんだ。
見、見せろって、ちょ、ちょっと待って!?
な、なな、ナニを見せろって言うの。
ここはアモーレU号棟の2階の廊下で、アタシの住む202号室の玄関前なんだけど。となりのアモーレV号棟から、この廊下まる見えなんだけど。
ぱ、パジャマのズボンおろされて、下着とか見せろって言うのかしら。
ど、どっどどどんなの履いてたんだっけ?履き古しのシミだらけのクタクタのアレだったりしたらどうしよう。てゆーか毛の処理とかメイクに時間かけすぎてサボったからたぶんていうかゼッタイ脇からはみ出してるハズなんだけど。しかもズボン下ろすもなにもサイズがキツくって、お尻とかかなり食い込んでるハズだから脱がすのタイヘンなハズなんだけど。
「あ、やっぱり血ぃ出てるんじゃね?……そのまんまじゃ痛てーし、歩きにくいダロ」
と、どんどんパニックにおちいるアタシの思考を置き去りにユズルくん。
転んだときにすりむいたアタシの擦り傷を見つけて、
「あっ」
とアタシが小さく悲鳴をあげるのもかまわず、腕をつかんで強引に引っ張って行く。