助走-4
「さっきはビックリしたよ?……だってオマエ、今日はママ出掛けて留守だって」
アタシのヒザに付いた砂ぼこりを払いながら、
「居るんなら居るって教えといてくれれば、オレだって逃げなくて済んだんだぜ?……っていうか、あんまり知り合いに見られたくないでしょ、このカッコ」
そう言うと、羽織っていたロングカーデを開いて、着込んでいた衣装を見せる。
「モ、モルフォだ……」
「そーだよモルフォだよ……てか、オマエがオレに着て来いって言ったんじゃね?」
「こ、コスプレ……」
「なにボケてんだよ?……これから例の、子供会のつまんないハロウィンイベントだろ?仮装してご近所からお菓子をもらってくるっていうだけのさぁ」
あきれたように説明するやや紅いクチビルの動きがエロいなぁ、なんてボンヤリ考えながら、さっき冷蔵庫の前でチラッと見た子供会の案内のことを思い出しつつ、アタシは相手の衣装を上から下までながめていた。
とんがったウサギの耳みたいなリボン。
スリムな身体の線がハッキリわかる、白いサテンのミニスカワンピース。
その胸元は、ボタンではなく黒いヒモで縦に編み結びされ、鎖骨の下の白い胸元から、おへその辺りまでが隙間からチラチラ見える。
そして、スラリと伸びた両脚を包む、ボーダー柄のニーハイソックス。
でもなんだか、妙な違和感。
本格スマホ格闘RPG「グラップルファンタジー」、通称「グラプル」に登場する占い師、モルフォちゃんのコスチュームだ。
もともとゲーマーのアタシでなくとも、グラプルの双子キャラのモルフォのことは、あまりスマホでゲームをしないウチのムスメですら知っている。
そんな、わりと有名なキャラのコスチュームを身にまとった、この子。
どっかで見たような覚えのあるカオだから、きっとムスメとおんなじクラスの娘なんだろうけど。
キリッとりりしい、やや太めのまゆ毛。
片方だけ二重のまぶたの、黒目のおっきなお目目。
それを縁取る、付けマ不要のフワッフワのまつ毛。
けっこう目立つ感じのモテそうな娘、っていう印象。
男子だけじゃなく、女子にも人気ありそう。
……でも、なんかヘン。
声は確かに女の子にしては低めだし、モルフォ自体も自分のことを「オレ」って言っちゃうワイルドなお姉さんキャラだけれども、銀色がかった紫色の髪のウイッグがとっても良く似合ってるけど、でも、デモ、でも。
鎖骨の下の、ノーブラのおっぱいがあるべきところのムネの膨らみが、少ない。
少ないどころか、肋骨が浮いてる。
シカモ、細い首の喉元に、ちょっぴり膨らんだアレ。
アレは、見間違えようもなく、男性のノドボトケ。
そして第二次性徴にさしかかったコドモ特有の、妙に濃い、鼻の下のうぶ毛。
美少女っていうより、少年、ぽい。