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「trip」 or Treat
【コメディ その他小説】

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助走-3

ピンポーン。

……。

……ピンポーン。

………。

……ピンポーン、ピンポンピンポンピンポーン。

すっかり忘れ去られていた玄関先の訪問者が、
(丁度12時間前にカレシと別れたばっかりの、しかもゆうべのディナーデートのドタキャンの原因が、カレシの勤務先の後輩♀23歳営業職がめでたく妊娠したっていう報告、っつーかひとまわりも年下の子とフタマタかけられてたことが発覚したことだったっていう、要するに若い娘にネトラレてフラれただけの哀しいシングルマザー36歳をあざ笑うかのように)
モノクロの画像しか映し出せない旧式のカメラ付きドアホンを再び、鳴らし始めたからだ。

……ピンポンピンポンピンポーン。

(ヤベ、しつこいなコイツまさか……また受信料のヤツか?)

……ピンポーン、ピンポーン。

数年前にうっかり居留守をつかいそこなった苦い経験と猛暑の玄関先での30分以上におよぶ押し問答の記憶をあくびと共に噛み殺しつつ、おそるおそる白黒の液晶画面をのぞきこむ。

(……???)

カメラ位置が低いせいか、首から下くらいしか映し出さないけど、けっこう高身長なのかな?
まあ、体臭のキツそうなポロシャツ姿でもなければ社員証のカードもぶら下げていない。少なくとも受信料泥棒の人ではないみたい。
薄手のロングカーディガンらしいものをスリムに着込んでいるから、たぶんアカリのトモダチだろう。
ドアホンのスピーカーをONにして、
『……はーい速水でーす……今アカリ起こすからちょっと待ってねー……』
と、可能な限り爽やかに出そうとした声は、昨夜ムスメと怒鳴りあったせいかひどくかすれてる。

(…えっ!?)
アタシの声に驚いたのかしら。

玄関先の子、ビクッと身体をすくませたかと思うと、ロングカーデをひるがえし、カメラに背を向けて駆け出してしまった!!

『えっ!?……ちょ、……』
予想外の展開に思わず、アタシ。
スピーカーをOFFにするのも忘れて、昨夜から内カギを掛け忘れていたらしいドアを
バァン
と開け放ちざま、
「……ちょ、待ッ」
普段履きのスニーカーをつま先に引っかけつつ、玄関から転がるように飛び出してた。

つーか、飛び出した時に転んだ。
「……痛ッ!!」

アタシの間抜けな悲鳴と物音に気付いてくれたらしい。安マンションの2階の廊下の向こうの後ろ姿が振り向いて、こちらに戻ってくる。
(あ、モノクロ画像とおんなじだ)
マントのようになびくロングカーデの色がグレーなのに妙に感動しながら床に倒れたままのアタシに駆け寄ると、
「……大丈夫?」
落ち着いた感じのハスキーヴォイスが手を差し出す。
「ご、ごめ…」
謝ろうとする間もなく、アタシは軽々と片手で引き起こされた。



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