ハロウィン・イブがやって来た-1
そこは都市部の鉄道高架を見下ろす雑居ビルだった。
オトナの男たち女たちの欲求を満たす、酒を伴う店が各階の各室に並ぶなかに、ひとつの階を占めた室があった。
その室の扉には「プライベート・オフィス」とあるだけで何の誘いもない。しかしその扉の奥は、カラフルで可愛いキャラクターにおおわれた明るい内装と、幼い子どもたちの声とにあふれていた。
そこは「夜の児童施設」だった。繁華街で深夜に働く女性たちが、幼い子どもを預けるための室だった。
もっとも、児童施設としての認可など受けていない。しかし繁華街のど真ん中で 深夜でも気軽に子どもを預かってくれることから、利用する女性は多かった。
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ハロウィンを明日に控えた夜ふけ、多くの子どもたちが児童施設のベッドで夢の中にいるころ、一室では自称保育士のあつ子が三人の男児に衣装を着せていた。
「さあ、今からハロウィンのおゆうぎ会だからね。いっぱいおけいこしたんだから、思いきり楽しもうね。オ〜ッ!」
「オ〜ッ!」
声をそろえて声をあげたのは、双子であるススムとアユム、そして二人より背は低いが一つ年上のユウキだった。
三人はよくいっしょに施設でお泊まりすることがあった。アイドルマニアのあつ子は、よく三人を大きな鏡のある部屋に呼んでは、ダンスの真似ごとをさせていた。
三人を見ているうちにあつ子は、ふと この子たちのダンスを披露させてみたくなったのだ。
同じ雑居ビルで働く知人の女に話して見ると、
「あ、それ、面白い。その子たちステージデビューさせようよ!」
という単純なノリで、三人の「おゆうぎ会」が決まった。そんな話を決めたあつ子と知人の女との胸の中には、同じ思いがうずまいていた。
「まず、親にバレないようにしなくちゃね……」
あつ子は 黒いマントをまとった三人ひとりひとりに、
「さあ、いくわよ!」
と声をかけて唇に長いキスをすると、ひとりひとりの頭に「ジャック・オ・ランタン」の仮面をかぶせて、扉の外に連れ出した。
一歩出れば、そこはオトナの欲にまみれたヤミの中。
その中に、あつ子と三人の男児は吸い込まれていった。