3-6
「亜沙美、昨日はドタキャンしてごめん」
次の日。筒井くんは始業して間も無くあたしの席までやってくると、申し訳なさそうに目の前で手刀を切った。
もう片方の手には、出張先の名物らしきお煎餅。このサイズはみんなに配る用だろう。
それとは別に彼はスーツのズボンのポケットから小さな包みを取り出して、こっそりあたしに渡してきた。
「お詫びって言ったら何なんだけど……」
見れば、神社の名前が入った小さな白い紙袋。
キョトンとした顔で、それを開けて見ると、ピンク色した可愛らしい御守りが出てきた。
「これ……」
「なんかさ、現場の山の麓の神社なんだけど、すごく御利益のある神社らしいんだ」
目を泳がせて話しをするのは筒井くんが照れてる証拠。
彼は行き場のない手で髪を触ったりメガネのつるをくいっとあげて見たり、そわそわ落ち着かない。
「だからさ、これからも俺と亜沙美が仲良く付き合っていけたらなあって買ってきた。あとさ、今日は仕事早めに終わらせるから、どこかで飯食っていこ?」
「筒井くん……」
照れているその横顔に、涙が溢れそうになる。
この人は、いつもこうやって、こんなにもあたしを大事にしてくれるのだ。
「嬉しい、ありがとう……」
もらった御守りをギュッと握りしめ、静かに目を閉じる。
すると、昨夜の激しい情事が脳裏に浮かぶ。
遠藤くんとのセックスは、本当に気持ちよくて、何度達しても終わりがないくらいあたしは彼に抱かれていた。
寝不足になる程抱き合って、キスをして、二人で上りつめて。
お互い最高の快楽を知ってしまっただけに、筒井くんの優しさに胸が痛くなった。
「おー、カノジョにお土産ですか」
ふとタバコの香りが鼻をさして、ドクンと胸が高鳴る。
声がする方を見れば、筒井くんの側に喫煙所から戻ってきた遠藤くんが立っていた。
途端に昨夜の彼の姿がダブって顔がカッと熱くなる。
昨夜、いや明け方まで二人で交わっていたから、未だ彼の肌の体温が鮮明に蘇ったような気がして。
ーー数時間前までは、あたしは遠藤くんとセックスしてたんだ。
脚の間が途端に熱く痺れてきて、あたしは俯いて御守りを眺めているフリをした。