2-7
「んっ……!!」
荒々しく乱暴なキスに、あたしはアイマスクの下でギュウッと目を瞑る。
サッと血の気が引いた身体は鳥肌がぶわあと広がって。
あたしは恐怖で身を強張らせていた。
両手で頬を挟まれた時の指に張り付いたタバコの匂い。
そして、唇を重ねた瞬間にスウッと感じたミントのタブレットの香り。
これは……。今、あたしを抱いているのは……。
筒井くんじゃないーー。
あたしがそう思っていると気付かない相手は、あたしの唇を貪るように犯してくる。
「や、やめて……。解いてっ!」
「亜沙美……?」
「やめてっ、遠藤くんっ!!」
首筋への愛撫をしていた彼の動きがピタリと止まった。
「筒井くん……じゃないんでしょ?」
静かにそう言うと、アイマスクの向こうで、観念したらしい遠藤くんがフウ、と息を吐いてから、
「ごめん」
と呟いた。
◇
「どうして、こんなこと……」
あれからあたしは拘束を解かれ、アイマスクも外してもらって、ベッドに向かい合って座る遠藤くんを睨みつけていた。
仮面も外し、フードも脱いだ遠藤くんはすっかりあたしと目を合わせられずに下唇を噛み締めている。
やがて、プルンと唇が揺れたかと思うと、彼は徐に口を開き出した。
「……筒井の出張、1日伸びたんだ。山奥の作業だから、電波届かなくなるって、会社で電話を受けて……ちょうどお前が銀行に行ってる時だよ。だから、今日は亜沙美に行けなくなってゴメンって伝えといてって言われたんだ」
うちの会社の仕事はよく理解している。
確かに山の頂上なんかに建っている電波塔の作業があったりで、電話すら繋がらないような現場での作業もたくさんあるから、筒井くんからの電話がなくてもあたしは気にもしてなかった。
「オレ、最初は本当に、筒井に言われたことを伝えるつもりだったんだ。でも、お前がすごく楽しみにしている顔を見ているのを見てると……なんかイライラしちまって……。オレの気持ちなんて知らないで、筒井とのセックスをそんなに楽しみにしてんのかって思うと全部ぶち壊したくなった」
驚いて声を失って、彼を見ると、難しい顔のままあたしをジッと見つめていた。