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「迷子のジャックオーランタンを預かっています」
【ファンタジー その他小説】

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1話-4



―やばい、今度こそ本気で殺されてしまうかも。


そう思ったのは、身体を庇ったその時一瞬だけだった。
両手をひろげようとした『そいつ』は、自分の両手を見て、私を見て、自分の足元に散らばるカブの残骸を見て、もう一度自分の両手を見た。

「っあああ!!カブの悪魔の炎ねえと何も出来ねえじゃん俺ぇぇ!!」
「馬鹿なの!?」

悲壮な叫びを上げた『そいつ』は、またもイジけ、身体を丸めてうずくまった。
ブツブツと、何かを言っているようだが、私は緊張などどこかへいったように呆れた。

―馬鹿だ。この人本当の馬鹿だ。

少し、頭を抱えた。人外であり、恐怖の存在なのに、なぜこうも抜けているのか。
相手を目線だけで殺せそうな、血の色に染まった目は、今涙ぐんでいる。
せっかくの長い手足は、今足を抱え込んで丸くなっている。
呪いをかけられそうな口からは、ブツブツと「だって、ランタンないとか」「壊されるとか、ありえないし」などとボヤキばかり発している。
独り言をつぶやいていると思って、様子を見ていたら、次第にボヤキの矛先が私に向いていた。

「お前から悪魔の匂いしたと思ったのに、なんか悪魔の匂いしないし・・」
「当たり前でしょうが、悪魔じゃないですから。」
「じゃあ俺のランタンどうして壊したの・・」
「そっちがしつこく変なこと押し付けてくるからです。」
「最初に壊したじゃんか・・」
「あれは、顔の目の前に突きつけられたからです。」
「突きつけてないもん・・」
「もんとかやめて下さい、可愛くないです。」
「・・・悪魔。」
「悪魔じゃない言ってますよね。」
「ランタンを粉々にしたじゃないか・・」
「空手やってれば誰でも出来ます。」

もはや水掛け論のような押し問答に終わりが見えず、私はため息をついた。
当初の目的であった、早く帰りたい、という気持ちがムクムクと湧き上がる。
ここまで馬鹿なら、火かキャンドルを弁償してさっさと帰れるような気がしていた。

「とりあえずキャンドルを差し上げます。それでどこか行ってください。」

トートバッグから財布を取り出して、中身を確認していると、『そいつ』はバッと顔を上げた。

「キャンドル!?悪魔のか!?」
「は?コンビニに売ってるやつですけど。」
「悪魔のものじゃないのか!?」
「はい。」

悪魔のものを売っているコンビニなんかどこにあるんだ。
そういう気持ちを込めて、大きく頷いてみせる。
すると、『そいつ』は眉を下げ、口を尖らせた。

「人間のものなんかダメだ、数十年しかもたない。」
「数十年もてば良いと思いますけど。」
「それにお前から悪魔の匂いがしたんだ!お前が悪魔なら!」
「・・・」

―まだ悪魔と罵るか。

ニコリと笑顔を見せ、目線でそう訴えると、『そいつ』は慌てて正座に体制を直した。
慌てたように、言葉を取り繕う。

「いや、お前じゃなくて、お前の近くに居るモノが悪魔なら!自然と触れ合うモノならお前に匂いが移るかもしれない!」
「私の、近くに居るモノ?」
「お前の近くに悪魔が居るなんて嫌だろう!?だから俺が貰ってやる!俺のランタンにも悪魔は必要なんだ!いい話だろ!?」

なぜここまで『そいつ』が上から目線で条件を出すのだろう。
私はむしろここで何もしないで帰っても全然構わないのだけれど。

「悪魔は危ないんだ、だから俺が直々に守ってやる!で、悪魔を見つけてやる!良いだろう!?」

ー貴方と同じようなものじゃないのか。

悪魔のような存在に、悪魔から守ってもらうっておかしくないか。

「俺がいれば、お前は成功するぞ!」

だんだん安っぽいセールスのような台詞になってきている気がして、私は呆れた。
今時そんな安っぽい言葉に引っかかるような馬鹿はいない。
分かっているのか、『そいつ』も必死になってきている。

「俺がいれば、悪魔を見つけられるし、俺は口が上手いからな、どんな人間とも口頭でやりあえるぜ!魔除けにもなるだろう多分!あ、ただ十字架とかやめて、存在近いから」
「・・・!」

今の台詞を聞いて、私は考えた。
多分『そいつ』の存在の正体は、ジャックオーランタンだ。あのカボチャのお化け。
たしか、人間だけではなく、魂を貰いに来た悪魔までもを何度も口で騙し、生涯を過ごした人間だったが、死後はその行いのせいで天国にも地獄にも行けず、あの世とこの世を何百年も彷徨っている、という妖怪だったはず。
そのときに暗がりを彷徨っているので、悪魔から炎を貰って、くり抜いたカブに灯して歩いているのが特徴である。

だが、大事なのはそこではない。
これから冬のお菓子商戦が始まりつつある会社人の私には、どんな人物とも渡り合える口上の強さが欲しい。それこそ、こんなに連日終電帰りまでして、企画を練り上げるのだ。絶対に商品化されて欲しい。
だが、商品化されるには、企画会議を何度も通る必要がある。3年目であるが、それでも立場の弱い私では、一人では難しいと感じていた。


ーならば、利用しない手はない。


「分かりました、貴方を拾います。」
「おぉ!話が早くて助かるぜ!」
「ただし、悪魔を見つけるまで互いの協力は惜しまないこと、良いですね。」
「分かってるよ、当たり前だろう?」

にやりと笑みを浮かべた『そいつ』は、先ほどの弱々しさを捨て、ゆらりと立ち上がる。
頭二個分の距離で、二人は視線を交わせた。

「俺はジャックオーランタン。ジャックと呼んでくれ。」
「私は椎名翼です。」
「あぁ、よろしくな、ツバサ。」

『そいつ』がニヤリと笑みを浮かべた瞬間、冷たい風が私の黒髪を揺らしていった。



10月31日、ハロウィン。
私はジャックオーランタンという妖怪を拾うことになった。





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